
何を隠そう、エスコヤマの開店までに私が約3年の月日を要した理由こそが、小山ロール。
川が流れて鳥が鳴くような自然あふれる環境で店を開きたい、という私のわがままを叶えるには、私の店にしかない抜きん出た魅力をもつケーキの開発が絶対条件だったのです。
そのケーキを作るにあたって心に決めていたのは、ロールケーキやシュークリームのように“どこにでもある定番”をとびきりおいしく作ること。“定番”は誰でも一度は食べたことがあり、それに対する「味の基準」が明確にあるはず。例えば、「ロールケーキなら、あの店が一番おいしい!」という記録があるはずだからです。ならば、私はその“ロールケーキの味の最高記録”を塗り変えてみよう、と思ったのです。
では、どんな味にしようか?
3年間、全国のパティスリーなどをまわって技術指導をするかたわら、抜きん出ておいしい“定番”へ構想をめぐらす日々…。
そんななか、ある日思いついたのがロールケーキ。当時のロールケーキは、こんがり茶色の「焼きっつら」を外側にして巻くと、包装用のパラフィンに皮がくっついてしまうため、黄色い生地を外側にして巻くのが主流でした。
しかし、この「焼きっつら」を外側にするほうが、はるかに魅力的ではないか?と私は考えた。薄くて上質の「皮」を思わせるリッチな質感に、ついさわってみたくなるような優美な姿に、できないものだろうか…と。結果、それを実現するには以前の2倍以上の焼き時間がかかって工程が面倒になりました。だからこそ、この小山ロールは作るたびにモノ作りにおいて大切なことを思い出させてくれるのです。
“モノは、手間をかけて丁寧に、心を込めて作らなきゃいけない”。 |
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そうして、ロールケーキの開発に打ち込み始めて数ヶ月が経った頃、「TVチャンピオン」グランドチャンピオン大会の話が舞い込んできたのでした。
場所はお菓子の都、パリ。1ラウンドから斬新で華々しいケーキが登場し、熱い戦いが繰り広げられている。決勝ともなれば、全国の強剛パティシエが競って、奇想天外なケーキを作るに違いない。そのなかで、私はいったいどんなケーキを作ろうか…
思い悩んだ末に浮かんだアイデアが、「SIMPLE IS BEST」。“そうだ!3年間温めてきたあのロールケーキを、世界の味覚の審査にかける絶好のチャンスではないか”白熱する会場の真ん中で、私はたっぷりのハチミツと卵黄を泡立て、丁寧に空気を抱き込ませた、しっとりときめ細やかなケーキを披露しました。結果、審査員100人のうち、85人が私のロールケーキを選定。私はパティシエとして何よりもうれしい“味覚部門”のチャンピオンになることができたのです。
「このロールのケーキの名前は?」
司会の中村有志さんからいつものように尋ねられ、私はとっさに答えてしまいました。
「『小山ロール』です」 |
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