17.09.29 (1/3ページ)
Vol.5

宝物の発見。〜おいしいものは、裏にある〜

混沌とした情報とモノのカオスの中から自分だけの宝物を発掘すること。
その小さなサプライズと喜びには自分だけでなく、多くの人を幸せにするチカラがある。

先日、ある新聞の人気ランキングで「シフォンケーキの部」でエスコヤマが1位になった。

エスコヤマというとメディアではチョコレートやロールケーキといったアイテムが取り上げられることが多く、シフォンケーキのイメージを持つ方は少ないだろう。 私たちにとっても、この一件は小さな驚きだった。

個人的にランキングはあまり好きではなく、これまで依頼があってもエスコヤマでは全て断ってきたが、今の世の中は何にでもランキングをつけたがる。インターネットやSNSなどを通じてあまりにも多くの情報が溢れているため、信頼できるメディアや人物などが発信する“他人の評価”を通して、モノの良し悪しを判断するのが普通のことになった。今や、自分の価値基準だけで物事を評価するのは、かなり勇気のいることだ。だからこそ、ありとあらゆるものに、みんなの意見の総意であるランキングが存在する。

その中で、一般的にいえば、ロールケーキやチョコレート、パンケーキのランキングといえばまだ理解できるが、マイナーな存在であるシフォンケーキにスポットライトが当たるランキングがあることそれ自体が「エライ!」と思った。 「日常にあるものの、その裏側に目を向けたランキングなら掲載される意味がある」そう考えた故の掲載だった。今回の結果を通じて「ようやく世の中の皆様にエスコヤマのシフォンケーキの良さを理解していただけたのだな…」という安堵とうれしさ、そして感謝の気持ちを感じている。

es-シフォンは、お店を立ち上げた14年前からずっと継続している定番商品だ。

エスコヤマを始めた当初から、私は「シフォンケーキだって立派なギフトになるのでは?」と考え、ふっくらとした生地を潰さずに良い状態で届けるには?それにはこんな箱があれば…とシフォン専用のギフト・パッケージを作ることも試みた。しかし、それを14年やってきてわかったことは、シフォンケーキはもっとずっと日常の暮らしに寄り添う身近なお菓子だということだった。だからこそ、14年目にして原点に戻り、パッケージもさらにシンプルにして、より多くのお客様に食べていただけるよう価格も再考した。

自分の中でのシフォンケーキの理想というものを考えた時、それはフォアグラを入れたり、トリュフを入れたりという奇をてらったものでは決してない。あくまでもシンプルに、グルテンをたっぷり効かせた弾力ある生地の食感や旨味を楽しむ、ごく“普通”のものだ。そのシンプルさゆえ、大きく注目されることは少ないかもしれないが、それを好んでくださるお客さまもたくさんいらっしゃる。

たまには他の味に浮気することはあっても、「やっぱり、この味」と、またここに戻って来たくなる、そんな“上質感のある普通味”だ。

いずれにせよ、シフォンケーキがポピュラーな認知を得た今となっては、より精度の高いものが求められている。 レシピを変えたり、味を変えたりということではなく、さらに“最上の普通”を目指して進化させたい。 これまでエスコヤマの中でもスポットが当たったことのないシフォンケーキという商品において、よそと違ったおいしさが評価されてランキング1位になったということは、この商品がそういうステージに上がって来たということだから。

そんな中、この冬誕生するのがベーシックからのアレンジバージョンである、「クリームチーズのシフォンケーキ」だ。試作時のテーマは、“スフレタイプのチーズケーキよりも、さらにふわふわのチーズのお菓子は実現可能か?”この課題に取り組むにあたっていろいろな手法を考えたが、結局はクリームチーズと水というごくシンプルな素材で簡単にクリアすることが可能になった。少し見方を変えれば、ずっしりと重いチーズの塊がふわふわのシフォンケーキに変身する。私がお菓子を作る時には、このようなテーマや制約、制限があればあるほど、モチベーションがアップする。追い込まれるほどに、どんどん新しいアイデアが浮かんでくるのだ。

こうした制約と発見・小さな思いつき・・・それが私のものづくりのソースになっている。

たとえばこの冬、登場する「ケイク オ ゆず酒」。これは、今や欧米も含めて世界の誰もが知っているゆずという素材への新しいアプローチとして考えた。ヨーロッパ生まれのブランデーケーキに着想を得て、それをゆず酒で表現したものだ。新たな発見としては、生地に酒粕を入れることで、酒造りにおいて全ての始まりとなる「米」の存在がより感じられ、よりいっそうゆず酒の風味と融合させることが可能になったこと。日本の素材の持つ力で、欧米にはない新たなお菓子の魅力を導き出すことができた。

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