17.10.13 (1/4ページ)
Vol.6

発見=新発見・再発見
〜終わりなき素材探求の旅〜

123のアイデアの源泉

例えば、黄と青。赤と緑。昔、美術の時間に習った色相環の対角にある色どうしは、「補色」と言ってインパクトのある美しい色の組み合わせだ。赤と緑が交差する時のその美しさを、食材の色に例えてみるとどうなるのだろう?例えば、赤い苺には、緑のヘタが付いていて、その美しさを引き立てている。赤には甘酸っぱいイメージ、緑には少し苦味のイメージがある。また、紹興酒の熟した沈んだ赤と、京番茶の渋い灰緑、この2つが重なり合うと、どんな効果が生まれるのだろう?そんなふうに、色、音、香りなど、日常で五感を使って捉えられるすべての情報の断片を徒然に書き留めた発想の種が、iPhoneのリマインダーの中に123個。2018年バレンタイン。さあ、今年はどんなアイデアをデザインしていこうか。

普段の仕事が“今年のカカオ”になる

今年も次のバレンタインの制作に入る時期になって、アイデアを練り始めていた矢先、衝撃的な知らせがニューヨークから入った。『本年度のI.C.A.(International Chocolate Award)アジア・パシフィック予選へのエントリー作品提出期限は3月29日です』メールの日付は2月11日。つまりは、提出まであと1ヶ月半。例年、4ヶ月は裕にある制作期間が今年はその1/3しかないのだ。それではあまりに準備期間が短すぎる。私は即、I.C.A.の主催者である友人のマリセルに問い合わせた。「なぜ今回はこんなに制作期間が短いんだ?エントリーする日本人はみんな困っているはずだ」それを聞いて、彼女は悠然と答えた。


「ススム、確かにあなたは毎年、新しいものをクリエイトして私たちをとても楽しませてくれているわ。その一方で、『パカリ』(エクアドルのカカオメーカー)は毎年同じアイテムでエントリーしてくると人々は思うかもしれないけれど、そうじゃないのよ、よく考えて。カカオは毎年、毎年、味も香りも違うことはあなたが一番よく知っているでしょう。私たちはあくまでも“今年のカカオ”で作品を評価するの。だから、あなたがこれまで作ってきたものを提出すればいいのよ。それは自ずと“今年のカカオ”になるのだから」

そんなマリセルの言葉に、私は目からウロコが落ちたような気分になった。確かにカカオ本位で考えるなら、彼女の言うことは正しい。しかし、私は毎年、日本でバレンタインの新作ショコラを楽しみにしてくださっているお客様のために、同じものを出すわけにはいかない。そんな葛藤が心の中で起こり、あまりの時間のなさに途方にくれたが、いずれにしても提出期限までの日数は限られている。そんな中で、とにかく私にできる限りのことをやるしかない、と考えるに至った。そんな時、マリセルの『これまで創ってきたもの』という言葉が私の心に残った。

過去作品・新素材からのインスパイア

まず、私が最初に手をつけたのは、これまで使った素材を一度洗い直して別の視点から見ることができないかどうか再考することだった。アイデアをリストアップし様々な可能性を実験し、点と点を結びつける作業を行った。このアイデアにはこのクーベルチュールが合う、この素材はあの素材と相性が良い…という実験と結果をノートに書き留め、そこからガナッシュ、タブレットと、ショコラを構築するためのパーツを作っていく。ここで、私のリマインダーの中に入っていた素材と、その素材から受けたインスピレーション、そして展開したストーリーを一部ご紹介しよう。

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