17.10.13 (3/4ページ)
Vol.6

発見=新発見・再発見
〜終わりなき素材探求の旅〜

時には山に分け入り、時には水中を探し…。まるでガラパゴス島の陸イグアナが海に潜って餌を見つけに行くような気分で、違う世界の新しい食材に出会う喜び・驚き。さらに、旧知の素材と向き合って得た新しいインスピレーションを元に、様々なアイデアを例年にないスピードで練り上げた。

リマインダーとは少し話が逸れるが、2017年の創作に大きな影響を与えた素材を語る上で、ペルー・サンマルティンのカカオを外すことは出来ない。昨年の7月に初めて訪れたカカオ産地・ペルーのサンマルティン地区で出会ったカカオを、最も信頼しているクーベルチュリエの一人フランク・モラン氏にクーベルチュールにしていただいた。いつもは、クーベルチュールを先に食べて、その元となっているカカオの果実はどんな味わいを持っているのかと確認しに産地へ行く、という流れだが、今回はその逆だった。新たに出会ったサンマルティンのカカオは、クーベルチュリエすら知らないものだ。新しいクーベルチュールの誕生に携わること自体が自分にとって新たな試みで、非常にワクワクした。

その後、完成したクーベルチュールは高いポテンシャルを宿していた。それが分かったのはタブレットの状態ではなく、ガナッシュに仕立てたときに浮かび上がった特長からだった。油性のタブレットから水溶性のガナッシュへ変化したときに水分と交わって溶け出した様々なアロマの伸びと、力強いが後に引かないカカオ感が、今まで出会ったカカオの中でも印象の残り方が違った。せっかく足を運んだ地のカカオを、何かの形で使いたいと思っていたところだったが、「絶対に使いたい」という決意に変わった瞬間だった。このサンマルティンのカカオはうれしい発見だった。そして、改めてカカオという素材の奥深さを感じ、カカオの探求は、まるで終わりのない旅のようだと感じ入った。そんなサンマルティンのカカオは、パリのC.C.C.コンクールに出品した4作品の中の4番目に選んでいる。

アイデアを寝かせることの大切さ

本来ならば次のフェーズでは、出てきたアイデアをしばし「寝かせる」という段階に入る。しばらくは、そのことについて考えたり、実験したりしないということだ。これは、陶芸家の市野雅彦さんも同じことをおっしゃっておられて、彼は一旦作った作品にしばらく「黒い布を被せて見えないようにしておく」のだそうだ。そうすることで、次にその作品を見たときに、より客観的な目線で作品を見ることができるのだという。

ところが、当然のことながらI.C.A.に関しては、今年はその時間はなかった。それでも、結果的には60種のチョコレートが完成し、その中から40種を期日までにエントリーすることができた。その後、パリのサロン・デュ・ショコラに提出する4種類のチョコレートを決めるには十分な時間があったため、例年通りアイデアを一旦寝かせて練り直すことができた。テーマも「大人と子ども」→「真赤」→「ディスカバリー・ジャパン」と変遷を遂げた。いつもならI.C.A.の受賞結果を見てから、金賞を獲得したショコラをメインに、C.C.C.に出品する4種類以外のボンボンショコラ・アソート(SUSUMU KOYAMA’S CREATION I.C.A.とUNDERGROUND CHOCOLATE AWARDなど)の組み合わせを考えるのだが、今回は結果を待たずに、自身の作品を自身の感覚を頼りに選んだ。

振り返ってみると、時間がたっぷりあっても、なくても結果的にはやり方次第なのだと感じた。逆に短時間で創作を行う方がかえってスムーズな場合もあるのだと思う。今年のちょっとしたハプニングによって、今後の私のクリエイションのルーティンも変わってくるかもしれない。

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