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Vol.8

ものづくりが始まる場所から

丹波篠山でも新しいブルーベリーとの出会いがあった。
実はブルーベリーにも甘くて大きな実のもの、小さくて酸味が強いものなど、色々な種類のものがある。しかし、ブルーベリーは単一品種でお菓子をつくるというよりも、複数の種類を混ぜてお菓子に使った方が味に広がりが出て美味しく感じる。いろんな種類をミックスすることで、甘さ、酸味、食感などのバランスを調節して楽しむことができる、非常に面白いベリーなのだ。丹波篠山のブルーベリー農園でも、多種多様な品種のブルーベリーを栽培しているため、それぞれの個性を上手にミックスして、新しいブルーベリーパイをつくろうと思う。旬の摘みたてのフレッシュなブルーベリーをあふれんばかりに用い、丹波篠山の初夏の味覚を存分に楽しんでいただきたい。

その華やかな酸味や香り、愛らしい赤い彩りが魅力のフランボワーズも現在、姫路の北方・加東市の農家で栽培されている。個人的にフランボワーズには思い出がたくさんあって、昔は高価で手が届かない材料だったフランボワーズがヨーロッパのマルシェで山のように盛られているのを見た時には「これならいくらでもケーキに使えるぞ!」と興奮して写真を撮ったものだ。また、エスコヤマの庭にも苗を植えてみたのだが、後で実が生って初めてそれがゴールデンベリーであることがわかって、ちょっとがっかりしたり……。
 そんな憧れのフランボワーズが車で30分の圏内で手に入るなんて、まるで夢のようだ。生産量が少ないので、全てのフランボワーズをそれに替えることはできないが、今では5〜6月と9〜10月の2回の収穫期に合わせてスペシャルなお菓子やコンフィチュールに使わせていただいている。10年、20年前には全く考えられなかった状況だったが、明らかに状況は変わってきている。さらに5年後か10年後かわからないが、やがては、この夏デビューする「木苺&クリームチーズのケイク」にも100%加東市産のフランボワーズが使えたら、と思う。

このように、ブルーベリーひとつを取っても、大きくて甘いものだけが上質なもの、というわけではない。また、果実は全て摘み取る時期や、時間、気候条件によって味も香りも大きく変化する。もちろん「大きな実を、一番甘い時期に」など、ある特定の仕上がりを狙って収穫し、市場へと出荷されるものもある。しかし、私たちは日々の暮らしの中でもっと素直に“自然の恵み”を感謝して受け止めてもいいのではないだろうか。フルーツや野菜で形がいびつなもの、規格外のサイズのものは商品としては認められず、たとえ味は良くても廃棄になるこの頃。その理由は、単に流通や売る側の都合にしか過ぎない。実際、キレイな形でなくても、小さくても、使いたい、食べたいという人は多いと思う。365日、同じ物なんて自然界には存在しない。何でも同じ規格、同じ形、同じ味にはまらなければ排除する……そんな考え方に、私は一種の危機感を感じている。もっと自然に寄り添って、同じ作物でも季節による味の変化や状態の変化を受け入れ、それを季節の味覚の個性として、楽しんでみてはどうだろう?

これまで私は、こうした個性的な材料に出会うたびに、必ずその産地を訪れ、それをつくっている生産者の方にお会いして、いろいろなお話を伺ってきた。なぜ、この作物をつくっているのか、どんなことを大切にしているのか、何を喜びとしてこの地道な仕事に取り組んでいるのか…。エスコヤマの近隣はもちろんのこと、九州から北海道までの日本全国、ヨーロッパ、ベトナムそして南米やアフリカ。様々な場所を訪れ、多彩な自然風土と文化を持つ生産者の方々にお会いして思うことは、現地に行かなければわからないことが、たくさんあるということだ。その地の人々の暮らしや文化という背景があって、さらにその土地の気候や風土があって、その食材が育まれているということ。それをただ、シンプルに五感で感じて帰ることが大切だと思う。もちろん、一度訪れただけで100%理解できるというものではないが、それがエスコヤマに戻ってからの私に大きなインスピレーションを与えてくれることだけは紛れもない事実だ。だからこそ、私は「なぜこの材料を選び、お菓子づくりに使うのか」の理由をきちんとお客様に対して語り、伝えたいのだ。このお菓子がどんなプロフィールを持つ食材を使ってどのようにつくられているかを知っていただければ、それはお菓子の味の一部になる。それが、太陽と生産者の方々に私ができる、唯一の小さな恩返しだと思う。


パティシエ エス コヤマ
小山 進

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