パティシエ エスコヤマ研修旅行

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es koyama IN FRANCE 2015

Vol.9 3日目 ヴァランスのレストラン「メゾン・ピック」でのお食事 WRITER:沖田 浩樹

研修3日目5月14日、ヴァランスでのレストラン「メゾン・ピック」のレポートをさせていただきます焼き菓子・小山チーズ担当の沖田浩樹です。よろしくお願いします。
私は入社2年目となり、今回、海外研修に初めて参加させていただきました。

「メゾン・ピック」はフランスでミシュラン三ツ星を獲得した唯一の女性シェフである アンヌ・ソフィー・ピック氏のお店です。
ピック氏は1997年から「キュイジニエール」という肩書きを名乗られ、「喜びや、幸せな美味しい瞬間を提供することを唯一の目的」とし、独自のスタイルを作り上げられています。
世界から認められている方の料理を食べてみたいと思い、今回の来店を希望いたしました。

小山シェフをはじめ、小山ロール担当の明比さん、hanareの宮澤さんと佐藤さん、生ケーキ担当の橋本さん、そして私、沖田の6名で夜、「メゾン・ピック」を訪れました。
今回のコースは約4時間半という長い時間をかけて進められると聞きました。
私自身、コース料理をそれほどの時間をかけて食べることは今までなかったので、どれだけたくさんの料理が出るのだろう、どういう風に進められるのかな、と未知の世界に期待と緊張を持ちながら、お店に向かいました。

エントランスはホテルのロビーのように高級感があふれていました。
席に案内されるまでの通路にも様々なオブジェが置いてあり、まるで美術館のようなインテリアです。入ってすぐのところには、ユニコーンのオブジェがあり、門番のように私達を出迎えていました。
その鋭い眼光に気が引き締まり、より一層緊張感が高まりました。

落ち着いた雰囲気の部屋に案内され、席に着くと、見事にテーブルセッティングされていて、お皿の上にはパーティーの招待状のような素敵なメニューが置いてありました。

席に座って周りを見渡すと豪華なシャンデリアがあり、通常のものよりも低い位置に吊り下がっていました。

「なんでこんなに低い位置にあるのかな」と気になっていると、「これは座っている時に他のお客さまと顔が合わないように配慮されたしきりのような役目がある」と小山シェフが説明してくださいました。

テーブルセッティングやメニュー、お店の雰囲気に早くも感動し、これからどんな料理が出てくるのか、期待に胸が膨らんでいると、ソムリエの方がやって来られました。
片手では掴みきれないような分厚いワインリストを抱えて小山シェフとワインのオーダーのやりとりが始まりました。
誰が飲むのか、どのようなペースで飲むのか、料理に合ったおまかせの出し方なのか、ワインを持ってくるタイミングなど細かく注文を聞いてくださいました。
このようなやりとりは普段ドリンクメニューから注文するレストランと違い、高級店ならではかな、と新鮮に感じました。
この日は、ソムリエの方が料理に合わせたおすすめのワインをチョイスして下さることになりました。飲み物も決まったところで料理が運ばれてきました。

小山シェフは、普段、料理を食べるときにその料理の味のバランスを考えて食べられ、甘味・苦味・酸味・塩味・旨味がどのように組み合わされ、構成されているのかという分析をされているそうです。
「最初はわからなくても、意識して食べることが大事だ」「味のバランスを考えることが当たり前になっているから、それが新しいケーキを考えることにもつながるんだ」ともおっしゃっていました。
それをうかがい、私も、今回のコースの料理を、味のバランスを考えながら食べてみました。

1皿目  amuse

・カレーのギモーブ
 ほのかなカレーのスパイシーさをギモーブ独特の食感で楽しめます。
・うなぎのムースとチュイール
 パリッとしたチュイールでサンドしているのはうなぎのムース。
 うなぎをムースという形で食べるのは初めてでしたが、
 濃厚で、とても深い味わいがありました。
・エストラゴンのコロッケ
 エストラゴンはフランス料理に欠かせないハーブの一つです。
 とても鮮やかな緑色の粉がエストラゴンです。
 日本のよもぎに近い味わいで、なんとなくほっとする味わいでした。

2皿目 Crème brûlée de foie gras et pomme

 キャラメリゼされたフォアグラと、さわやかなグリーンアップルのムース。
濃厚なフォアグラの甘みをクリーンアップルの甘酸っぱさが軽くしてくれます。
 少量に盛られたサイズも丁度よく、あっという間に完食しました。

3皿目 Baguette et Ficelle

バゲットやフィセルなど数種ある中で、小山シェフが「多分、最近飲んだ岐阜の玄米茶を使っているんちゃうんかな?」とおっしゃるものもありました。

4皿目 Carrot with Jasmine Blossom

華やかに飾られた一皿で、運ばれてくると皆から歓声が上がりました。
小山シェフも「彩りがきれいで、華やかに演出していて、とても女性らしいな」とおっしゃっていました。
人参は、食感、甘味、色の違いを楽しめるよう、数種類の品種を使われているそうです。
人参のジュレの中にはピュレが入っています。また、ホワイトバルサミコでマリネされた生の人参もありました。
ジャスミンの花の香りをつけた、クリーミーなヨーグルトが少し酸味を加えています。
上には、マダガスカルの「ヴィチペリフェリペッパー」がかかっていました。

5皿目 Roques-Hautes asparagus

小山シェフも「これはうまい!さすが世界レベルの味だ!」と絶賛されていた一皿です。Roques-Hautesという地域で育てられたアスパラが、グリーンアニス、ヴェルヴェーヌ(バーベナ)とリコリス(甘草)のソルベ、マイヤーレモンでマリネされています。アスパラは生のものをジュリエンヌ(千切り)したもの、オリーブオイル、バーベナ、マイヤーレモンのソースと一緒に出されます。バーベナとリコリスのソルベは、ほんのりスパイシーでした。
ピック氏は「最初はアスパラガスだけで、次にソースと一緒に味わい、春らしく、新鮮な風味を楽しんで欲しい」という思いを込められているそうです。

6皿目 Langoustine

 バターで炙り、グリルされた「ヨーロッパアカザエビ」に、グリーンアップル、シナモンの葉、グリーンアニス、セロリのソースをかけたものです。これは、ピックシェフがソースを研究していく中で生まれたもので、グリーンアニスの豊かな香りがセロリの苦味を際立たせ、グリーンアップルが酸味を加えています。味の決め手となるのはシナモンの葉での風味づけです。また、ベゴニアの花びらも酸味を強調する役割を果たしています。

7皿目 Blue Lobster

 10年以上前に創られたピックシェフのスペシャリテの一つで、6皿目同様、いちごやラズベリー、メロン、カシスなどフルーツの酸味を活かした一皿です。「ベリー出汁」(野いちご、ラズベリー、チェリーなど、その季節によって変わるベリー類と、ビーツ、昆布と鰹の合わせ出汁を合わせたスープ)をかけていただきました。ビーツはエスコヤマのカフェhanareのメニューにもよく使われています。ピックシェフもお勧めされている野菜で、「初めてフランスに来た方に、ぜひ知っていただきたい一品です」とおっしゃっていました。出汁に昆布だけでなく鰹を使うのは、そのかすかなスモーキーさがベリーの酸味と甘味に複雑さを与えてくれるからだそうです。
 正直なところ、全てを理解できたとは到底思えませんが、説明をうかがうと、非常に緻密に計算され、構成されていることがわかります。これが、小山シェフのおっしゃっている「味のデザイン」なんだなと思いました。

8皿目 Mediterranean red mullet

 サフラン、かぼす、レモン、アマレットのリキュールを加えて作られたソースを、ふっくらとソテーした赤ダイにかけていただきました。サフランのほのかな苦味と、かぼす、レモングラスの爽やかな風味が組み合わされています。
かぼすが味に奥行きを、アマレットが柔らかさを加えています。

9皿目 Young Drome Pigeon

肉料理は選択できて、鳩肉か子牛の胸せんのどちらかを選べましたので、私は鳩肉にしました。日本酒とローズゼラニウムの香りをつけた塩でマリネしたDromeという土地の若い鳩をグリルし、あっさりとしたソースをかけていただきます。ローズゼラニウムと日本酒の組合せを、ピックシェフは「マジック」だと考えられているそうです。特にローストの時に使うと、日本酒の持つフローラルさとゼラニウムの、少し柑橘を思わせる風味が素晴らしいとのことでした。また、鳩肉には、はちみつ、フロレンティーヌシトロン、日本酒でさっと煮た「ゴールデンビーツ」が付け合わせとして出されます。ソースの中には、挽き立てのカカオニブの粒も入っており、ほのかな苦味と発酵風味がプラスされています。カカオニブは、エスコヤマのお菓子にも使うことがあり、身近な食材です。私達の普段の仕事で使っている素材との共通点がこの皿にもありました。

10皿目 dessert

デザートは、1人1品と、プティフールがありました。プティフールは、レストランで出されるだけあって、 出してすぐに食べるものということもあり、見た目がすごく華やかでした。
私は白いキューブ状のミルフィーユをいただきました。ジャスミンのジュレとパイ生地を重ね、バニラクリームで包んでいます。周りの泡は少し刺激のある、こしょう風味のムースでした。 のはずなのですが…、実は、デザートについては後から先輩にうかがったものです。 私自身は、小山シェフとの初めての食事に緊張し、席も隣に座らせていただいていたこともあり、 頭が真っ白になってしまっていました。デザートについて、いくら思い出そうとしても思い出せず、残念です…。

 お食事中に、小山シェフからお話いただき、印象に残っているのは「もっと色んなことに興味を持ちなさい」ということです。私は普段エスコヤマの中で何が起こっているのかということですら、はっきりと知らないこともよくあります。小山シェフがどんなことをされているのか、どんな活躍をされているのか。世界を知ることも大切ですが、まずは 毎日自分が過ごしている身近なところにもっと興味を持ち、よく知ることから始めます。
 今回初めて海外研修に参加させていただいた中で、このような三ツ星レストランにも行く機会を与えていただき、充実した日々を過ごすことができました。「メゾン・ピック」で出された料理は様々な食材がとても複雑に組み合わされていましたが、小山シェフがよくおっしゃる酸味や甘味、苦味という、美味しさの要素がうまく調和されているように感じました。普段そういったものを食べ慣れていない自分がレベルの高いものを食べたとき、すぐにはその料理についてわからないことがありました。その時シェフから「あなたの舌はまだ未熟だから、自分レベルで美味しさの判断をするのではなく、味覚をインプットして、なんでこれが世界で受け入れられているのかを考えて食べなさい」とおっしゃっていただきました。味覚を鍛えるにはとにかく考えて食べることが大事です。いいレストランに行ったりするのも一つだと思いますが、行くだけでは成長しないですし、知っているだけでもダメだと思います。

私はまだまだ味覚も知識も優れたものは持っていませんが、今回、「世界レベルの味」を体験することができました。
シェフから伺ったように、もっと色んなことに興味を持ち、味覚を鍛え、お菓子作りに生かして行きたいと思います。
また、小山シェフが普段からおっしゃっていることで、どんな仕事をする上でも大切なのは「感じる→切り取る→伝える(話す、文章にする)」ということ。これが得意でなければ、良い仕事はできない。私達パティシエの仕事で言うと、たくさんの方に喜んでいただけるお菓子、ヒット商品は作れないということがあります。
事実、このレポートが完成するまでに40日以上かかりました。何度も書き直し、「内容は合っているけれども、この表現では伝わらない」と指摘を受け、広報スタッフの方や小山シェフに指導していただきました。
私は、まだ小山シェフがおっしゃっている言葉の本当の意味の深さを理解できていないと思いますが、まず、第一歩としては「感じたことを、他の方にわかるようにうまく言葉にして伝える」ということ。そして、次には物事を見るときの視点、誰にとっても「面白い」と感じられる切り抜き方ができるように、色々なことを学ぶこと。
レストランで美味しいものを食べることだけでなく、このように普段からできることを積み重ねていきます。
この旅行でとても貴重な体験が出来ました。このような機会を作ってくださった小山シェフ、長期のお休みを許して待ってくださったお客様、旅行中たくさんのサポートをしてくださったスタッフの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
まだまだ研修は中盤。次のレポートもありますので楽しみにしてください。
ありがとうございました。