パティシエエスコヤマ研修旅行記2016

Vol.6 「BEAN TO BAR FARMER」訪問レポート WRITER:安西 大輔

5月13日「BEAN TO BAR FARMER」訪問レポートを担当させていただく、入社2年目、研修旅行初参加のショコラ担当・安西 大輔です。

研修旅行3日目の午前。今回の研修旅行で2度目のカカオ農園訪問!!
カカオの産地というとアフリカ、南米が多いですが近年ではベトナムなど東南アジアが注目されています。まだまだ生産量は少ないですが、高い品質のカカオ豆が獲れる産地です。
日本から一番近いカカオの産地なので、以前から行きたいと思っていましたので、とても楽しみにしていました!

朝食を済ませて朝7時半にホテルを出発します。
本日はVIETCACAOのスタッフ、アーノルドさんがホテルから同行してくださいました。

VIETCACAOとは8年前からベトナム南部のベンチェ地域でカカオ生産を発達させ、継続的にカカオの栽培をしていくために仲介者を挟むことなく、栽培者が直接収益を得られるよう活動されている会社です。今回、見学させていただいたカカオ農園も、VIETCACAOと一緒に活動されている中の一つです。
午後からはVIETCACAO作業場の見学もさせていただいたので、詳しくはバウムクーヘン担当の伊藤さんのレポートをお読みください。

バスでベトナム最大の都市ホーチミン市から約100㎞の移動。
市内は現地の方が運転する大量のバイク!余談ですがホンダのバイクが一番人気で、全体の6割以上のシェアを占めているそうです。この大量のバイクの6割以上が日本製と考えるとなんだか誇らしいです!
ですがバイクとバスがとても近い…。こんな過積載も!!

中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを流れる全長4,350kmの
東南アジア最長の川、メコン川を渡りカカオ農園のある目的地ミトーに向かいます。
ちなみに、「メコン」とはタイ語系の呼称で、国によって“瀾滄(らんそう)江(中国)、トンレトム川(カンボジア)、クーロン川(ベトナム)”と名前が変わるそうです。
水が茶色くきれいには見えませんでしたが、水質が悪いわけではなく、削られた土砂の色で茶色っぽく見えているとのことでした。下流の「メコンデルタ」と呼ばれる、多数の分流が派生している地域では、高床住宅や水上マーケット等もあって、人々の生活の拠点になっていて、アジア最大の穀倉地帯としてベトナム経済にとっても欠かせない川だそうです。

バス内では、アーノルドさんが持って来てくださったクーベルチュールをテイスティングさせていただきました。
ミルク3種、ダーク4種、カカオパート(カカオマス:100%カカオ)1種の合計8種を試食しながら、それぞれのク―ベルチュールの特徴と、収穫した年によっての発酵とローストの方法について、VIETCACAOのカカオに対してのアプローチの考え方を教えていただきました。
発酵によってカカオの果肉に含まれているタンパク質やアミノ酸が豆のポリフェノールと反応することで渋味を減らし、ローストは香りを引き出します。その他にも砂糖の種類を変えたりし、それぞれのバランスによって産地ごとの特色のあるチョコレートが生み出されます。

シェフは、「素材やショコラを食べたときに何かとのマリアージュを思いつくスタッフになっていって欲しい。思いつかなければ新しい商品も生まれてこない。」とおっしゃいます。
個人的にも普段から「何かを食べた時やワインを飲んだときに自分の言葉で表現できるようになりなさい」と言われています。
「美味しい」で終わるのではなく「美味しい理由」を探る。
もっと美味しくするには何と組み合わせたら良いかを考える。
研修旅行中にも文化の違いを感じて、経験や味覚の記憶を蓄積していき、経験したことを的確に表せるような表現力をもっともっと養っていき、新たなものを生み出す力を身につけたいと思います。

世界各地のカカオ農園を訪問しているシェフはベトナムにも来られたことがあり、
ベトナムのカカオを「マダガスカルのカカオのような酸味とは違う、どこかオリエンタルな酸味を感じる」と表現されていました。
私もベトナムのカカオを使ったチョコレートを食べた時にフルーティーな酸味を感じていましたが、表現がうまく思いつきませんでした。
これまで食べたことのない個性的な味でシェフの「オリエンタル」という表現はぴったりだと思いました。

エスコヤマでは2015年のフランス研修で見学させていただいたフランスのクーベルチュリエ、モラン氏のク―ベルチュールを数種類使用しています。
モラン氏はペルー、マダガスカル、エクアドルなど世界各国のカカオ豆を使用されています。 VIETOCACAOのカカオ豆もその中の一つです。
アーノルドさんは、「酸味のあるカカオ豆をモラン氏からお願いされている」とおっしゃっていました。
モラン氏もシェフと同様に酸味が特徴的で魅力的だと感じているのではないかと思いました。
また、アーノルドさんは「自分たちが関わったカカオ豆がショコラティエによってどのようにショコラになるのかが楽しみだ」と、とても楽しそうに自身の仕事についてお話してくださいました。

テイスティング以外にベトナムのカカオの歴史のお話しもしてくださいました。19世紀後半、フランス帝国がベトナムを植民地にしていた時代にフランス人によってカカオがベトナムに持ち込まれた事、フランス支配下では、プランテーションが行われその中でも天然ゴムは世界の生産量の1/3を占めていて、現在でも世界第3位の産出国であること。手間のかかってしまうカカオよりも最近はココナッツの栽培が人気で、ココナッツオイルや石鹸などの生産に使われているそうです。色々なお話をしていただいている間にバスが停まりました。ここから10分ほど歩き、BEAN TO BAR FARMERに向かいます。

道中、シェフはきれいなものや珍しいものがあると必ず写真に収め、そう感じる理由を考えるとおっしゃっていました。「何となく」ではなく、常に様々な事を感じ、日々センスを磨き積み重ねているからこそ、新たなアイデアが生み出され、お客様に喜んでいただけるお菓子が生まれるのだと思います。

カカオを育てているアンさんがお出迎えしてくださり、カカオ豆をショコラにする工場を見学させていただきました。

◎焙煎機
発酵、乾燥を終えたカカオ豆を焙煎する機械。
焙煎によって香味物質を引き出します。香りと味わいが決まるデリケートな工程です。

◎分離機
焙煎したカカオ豆を磨砕し皮と胚芽を取り除き、カカオニブを取り分ける機械、

◎磨砕機。
カカオニブをすりつぶしてカカオバターを絞り出して、カカオマスにする機械。

それぞれの機械をどのように使用しているか説明していただきました。

農園にはパイナップルやカカオの木を直射日光から守るバナナの木なども生えていました。 その中にカカオの木があり沢山のカカオポットを実らせていました。

幹から直接実がなるのは何回見ても不思議に感じてしまいます。
私の知っているカカオよりもかなりふっくらしていて、手に収まらないくらい立派で大きかったです。

この農園のカカオは100種類以上のカカオの苗木を持っている、ホーチミン農林大学の教授からも協力を得て、
ハイブリッド種を栽培していました。
一般的に、「クリオロ種」は、苦味や渋味が少なく、エレガントなフレーバーが特徴ですが、栽培が難しい。
「トリニタリオ種」は、希少品種のカカオと、ファラステロ種という生産性の高いカカオを交配したもので、病気にも強く、香りも高いものです。

熟していないカカオとベストな状態のカカオを見せていただきました。

熟しているカカオを割ると、中から乳白色の果肉に包まれたカカオ豆が30~40粒ぎっしりと詰まっています。
パルプと呼ばれるこの白い果肉は食べてみると少し粘り気があり、ライチのような香りとパッションフルーツにも似た酸味を感じました。改めて、カカオがフルーツであることを実感しました。

白い実の中にある種は、割ってみると紫色であったり白に近い薄紫だったりします。その色の違いは、ポリフェノールの含有量や、品種によるものです。苦味や渋味に影響し、その後、ショコラになった際にも味に影響します。
シェフは生のカカオの豆を試食し、この段階でどのようなショコラになるのかをイメージすることができます。
私は知識ではショコラになる工程の意味を理解していますが、実際にどのようにしてその工程を進めていくのか、
現時点ではまだイメージすることができないので、シェフの感想を聞きながらイメージを膨らませました。
パルプを取り出された空のカカオポットは、有機肥料として再利用され無駄なく使われていました。

アンさんは色々なことをされていました。例えばパルプ。
本来であればパルプごとカカオ豆を発酵させるのですが、アンさんはパルプをジュースにしたものを一本5万ドン(日本円だと、約250円くらい)で販売されていました。

アンさんのところで作っているチョコレートはビターですがカカオ分45%。砂糖が半分以上含まれています。食べてみるとかなり甘く感じ、駄菓子屋さんに売っているチョコレートのようでした。朝にバスの中でテイスティングしたチョコレートのようにはベトナムカカオの特徴を感じることができませんでした。

ベトナムの方の多くはショコラの酸味が好きではないので、焙煎の段階でしっかり酸味を飛ばす、とのこと。ベトナム料理は酸味や甘味が強い料理が多いので不思議に感じましたが、先ほどのチョコレートが甘い理由がはっきりしました!

アンさんに別れを告げ、もう一つの農園へと移動します!

ミトーから目的地ベンチェに向かいます。30分ほどバスに揺られ、バスを降りてからは10分ほど歩き到着。

こちらはプランテーションが行われている場所で先ほどのカカオ農園よりも広く林に近かったです。
ミツバチ、害虫からカカオを守ってくれている蟻など、アンさんの農園とは違った見学ができました。

この時期は例年、雨期の季節なのですが今年は遅れていて、やや水不足。カカオの木を見てもなんとなく元気がないようで、不安になってしまいました。

カカオ農園の見学を終えたあとは、昼食を食べにMEKONG REST STOPというレストランに移動です。

メニューは
エレファントイヤーフィッシュの唐揚げ。
「ゾウの耳の魚」と呼ばれる魚の姿揚げ(白身魚)をライスペーパーに包んで食べます。皮はパリパリに揚がっていてとても硬かったですが、スタッフの方が取り分け、キレイに巻いてくださいました。

揚げ春巻き
魚醤か甘酸っぱいソースを付けて食べます。揚げ物ですが香草のおかげでさっぱり食べられました!

揚げもち
メコンデルタの名物!見た目のインパクト大!
もちを油の中でくるくる回しながら揚げると、まるで風船の様に膨らむそうです。
せっかく膨らんでいますが、つぶして食べます。スタッフの方が慣れた手つきで一口大に切ってくださいました。ほんのり甘くてかなり気に入りました。

ポークビーフン
このままでも美味しいですがたっぷりの香草とライムを絞ります。
シェフが味を調整したスープを一口いただいたのですが甘味と酸味がとても絶妙に調合されていました!

ぜんざい
蓮の実、昆布、豆、タピオカなどが入っていて日本で言う、あんみつです。

美味しいベトナム料理を食べながらシェフ、アーノルドさん、他のスタッフも交えてお話ししました。

今年の新作ショコラの中のロータスティー(蓮茶)を使った作品についての話にもなりました。
――2013年は、私(小山シェフ)が初めてモラン氏の「チャンチャマイヨ」を使った年。
同じ年に、ここベトナムへ来てロータスティーに出会い、ボンボンショコラを創りたいと思ったが、その時の自分では表現しきれなかった。
それが、表現する力の向上と、表現したいと感じさせてくれたク―ベルチュールに出会えたお蔭で、今年はすんなりと創ることができた――
と話されていました。
創作のインスピレーションを受けた原点ともいえる場所を私も訪れることができ、嬉しく思いました。

また、「フランスではカカオの味が前年と違ってしまうとがっかりされてしまう。」とおっしゃるアーノルドさんに対して、小山シェフは
「多くのショコラティエは味の安定を求めるので、毎年同じ味であることが良いこととされている。その気持ちもわかる。自分の創作の中でも、安定した味であることが重要な作品があって、そういうものには、ブレンドを使っている。大手メーカーは毎年気象条件や収穫量が違っても、南米、アフリカ…様々な国で穫れた豆を混ぜて、常に安定した味に仕上げることに長けている。“ブレンドの妙技”とも表せるだろう。
その一方で“シングルオリジン”と呼ばれる、同じ産地で収穫された豆のみで作られるチョコレートもある。
一つの地域で育てられるので、その年の天候などの影響がダイレクトに表れ、年によって味が全く違うことになることも多い。エスコヤマで、カカオハンター®の小方真弓さんやモラン氏から個人輸入しているカカオもそう。
私は、自分の好みの味の時だけ買って、好みではない年は買わない、ということはしたくない。味の移り変わりを、まるでワインのヴィンテージのような自然で面白いものだと捉えて、毎年購入することを約束する。その約束があって初めて、シングルオリジンのカカオを作られている方々とも共存できる、と考えているから。エスコヤマのショコラを召し上がっていただくことで、日本のお客様の中には、チョコレートのそのような楽しみ方を理解してくださる方が増えてきているように感じ、嬉しく思う。」と話されました。

私自身、エスコヤマに来てから、シェフが個人輸入されている、個性的なショコラに触れて今まで美味しいと思っていたものが一新され価値観が変わりました。

アーノルドさんのお父さんは80歳。毎年パリで開かれるサロンデュショコラで、エスコヤマのブースに一番に来て写真を撮って、お知り合いを連れてきてエスコヤマの説明をしてくださっているそうです。
「今年はモランさんとエスコヤマは隣のブースでとても楽しみ。お客様にもその方がエスコヤマのやりたい事や、カカオの力を理解していただきやすいだろう」と嬉しそうにシェフがおっしゃっていました。

今回の研修旅行は自分の仕事のベースとなる部分を学ぶことができ、より具体的に理解することができました。
カカオ農園を訪問させていただき、自身の使っているショコラに対して理解を深めて仕事をしていく事の大切さ。カカオの栽培を見学させていただいたことで、沢山の方々が製造に関わり、苦労をして作ってくださっているおかげで自分の使っている材料ができていることに感謝が芽生えました。
今、自分がどれだけ恵まれた環境で仕事ができているのかを実感できた研修旅行になりました。
このような貴重な機会を与えてくださったシェフに感謝し、自身も人に良い影響を与えられる人間になり、正しい方向に導ける先輩になるため、努力していきます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。