パティシエエスコヤマ研修旅行記2016

Vol.7 タイトル「カカオ豆への探究心」 WRITER:伊藤 龍太

研修旅行3日目の午後、ベトカカオ&カカオ集積所の見学レポート書かせていただきます、バウムクーヘン担当の伊藤龍太です。

昼食後、ベンチェ省で「ベトカカオ」が運営する職業訓練校内にある、カカオの醗酵所へ移動しました。この職業訓練校は、元々は芝生だった土地を2009年に改装して出来た施設です。こちらは、「エリタージュ」社のCEOアーノルドさんがご案内してくださいます。vol.1の大嶋さんのレポートにもありましたが、ここでもう一度「ベトカカオ」と「エリタージュ」社の関わりについて説明させていただきます。

障害をもつ若者の就業支援を行っている団体「ベトカカオ」。この団体を設立されたフランス人のアンドレさんは、今回私達を案内してくださるアーノルドさんのお父様です。「ベトカカオ」はお二人が創設された「エリタージュ」社と共に、ベトナムでカカオに関わる仕事の支援をされています。

こちらの施設では収穫後のカカオの選定、醗酵から自然乾燥の工程が行われています。まず1番初めに目にとまったのはこちらの3つのボックス!

前日訪問したカカオ農園では2段ボックスでしたが、この施設では3段ボックスを用いてカカオ豆を醗酵させます。ボックスには1番上からそれぞれ順番にA1、A2、A3と書かれており、醗酵段階に応じて上から流し移していきます。

近づくと、お酒と酢を合わせたような香りがします。カカオ豆の表面にはヌメリがあり、この段階ではそのヌメリの部分が醗酵しているのだそうです。カカオもワインなどと同様に「醗酵食品」であることを実感させられる光景でした。ちなみに、このヌメリの正体はカカオパルプです。と言っても聞きなれない方も多いかもしれません。
カカオポッド(カカオの実)には、カカオ豆が30~40粒ほど入っています。そのカカオ豆を覆っている、白くヌメヌメした果肉が「カカオパルプ」です。

まず初めにカカオポッドから取り出されたカカオ豆をボックスA1に入れ、2日間醗酵させます。ここではボックス内の温度は33℃〜38℃まで上がります。この段階を「アルコール醗酵」と言い、醗酵が進むにつれカカオ豆を覆っていたパルプは徐々に分解され剥がれ落ちます。そしてアルコールが生成されるのと同時に、豆の中に空気が入り込むようになります。
その後、カカオ豆はA1からA2へ。ボックスの下に扉があり、長い木のヘラで一気に移していきます。ボックスA2内の温度は45℃まであがり、ここからまた2日間、かき混ぜることで空気に触れさせながら醗酵を進めます。この段階で「乳酸醗酵」・「酢酸醗酵」が始まります。
アルコールは酢酸菌によって酢酸へ。この酢酸がカカオ豆にしみ込むことで、アルコール醗酵を止め、後のチョコレートの風味に大きな影響を与えます。

そしていよいよ最後のボックスA3。カカオ豆の醗酵具合によって異なりますが、ここではおよそ1日半〜2日間醗酵させます。私たちエスコヤマスタッフのためにA2からA3に移す工程をとっておいてくださいました。アーノルドさんのお心遣いに感謝です。

ところでみなさん、A1の箱の上に被さっている物が何かお分かりでしょうか?ヒントは、皆様にもおなじみのあの果物の葉っぱです。
正解は…そう!バナナの葉です。バナナの葉で空気を遮断することができ、酸素を必要としないアルコール醗酵には必要不可欠なアイテムなのです。

ボックスA3でも引き続き、温度変化をチェックしながらカカオ豆を空気に触れさせ、醗酵を進めます。ここまでくるとカカオ豆の色も茶色に変化してきます。こうして約6日間の醗酵工程を経て、次の段階へと移ります。

次は乾燥の工程です。

腰くらいの高さの台に網を張った、風通しのよさそうな仕組みでした。むらなく乾燥されるよう、手でまんべんなく広げていきます。この時に注意しなければならないこととしてシェフがおっしゃったのは、「清潔な手で作業する」です。菌のついた手でカカオ豆に触れてしまうと、その菌がカカオ豆にまで広がり、ダメージを与えてしまうのだそうです。
カカオ豆はとても繊細です。こちらの皆さんの作業がとても丁寧なことにも納得。スタッフの皆さんの「より良いものを生み出そう」とする気持ちが伝わってきました。
乾燥工程を終えたカカオ豆は、バナナのような甘い香りがしました。

と、ここでアーノルドさんが醗酵段階で出たカカオパルプのシロップを振る舞ってくださいました。
先程ご紹介したあのボックスの底に小さな穴が開いていて、そこから醗酵中に出る液体(ジュース)を集めてレモン汁などを合わせたシロップです。ここでしか飲むことのできない、大変貴重なもの。暑さにバテ気味の私達の体に、染み込む美味しさです。

醗酵過程のボックスからは、酢のようにツンとした香りが漂っていましたが、シロップの風味にその面影はなく、しっかりと甘みがありながらも、喉をスーッと通る爽やかな味わいでした。

こちらの使用用途はまだ決まっていないということで、今回特別にいくつか頂けることになりました。アーノルドさん、ありがとうございます!このシロップを使った新たなお菓子が誕生する日も近いかもしれません。

自然乾燥の過程を見学させていただいた後、日本から持ってきた、ベトナムのカカオとフランボワーズを合わせたボンボンショコラをアーノルドさんに食べていただきました。しかし30℃を優に超える気温の中、コーティングでなんとか外観を留めているものの、中のガナッシュはすでに溶け始めている予感。「急げ!」とばかりに、少し慌ただしい試食になってしまいました。
ボンボンショコラを半分口にしてじっと断面を見つめるアーノルドさん。にっこり微笑みながら、余韻までしっかり味わってくださいました。

せっかくなので、隣で選別作業に励んでいらっしゃる皆さんにも試食していただきます。「ボンボンショコラを初めて食べた」と恥ずかしそうに、そしてとても嬉しそうに話しながら食べて下さいました。何よりその笑顔を見ていらっしゃるシェフが1番嬉しそうでした。

最後はみんなで記念写真!

ベトカカオのみなさん、案内してくださったエリタージュ社のアーノルドさん、ありがとうございました!

そしてベトカカオを後にした私達は、バスに揺られること30分。次の目的地「カカオ集積所」へ到着です。

ここも気温は37℃。冷房のきいたバスから降りてすぐのこの暑さ、こたえます。隣でシェフが「39.5℃以上からしんどくなる」と一言。さすがです…。
こちらでは独自の醗酵、乾燥の工程を見学しました。

雨季と乾季があるベトナム南部の気候。雨季に入るとカカオを乾燥させるのが困難になるため、ここでは乾燥機を使用されるようです。
その隣では女性の方が、カカオ豆をカカオポッドから取り出す作業をされていました。すごい数のカカオポッドです!

小山シェフは以前、「スタッフを農園に連れていき、栽培からどのようなプロセスを経てチョコレートが完成するのかを目で見て学んでもらいたい」と仰っていました。今回カカオの醗酵、乾燥工程を見学させていただき、私はチョコレートと“科学”との深い関わり合いと、沢山の努力や丁寧な作業の積み重ねにより、高品質なチョコレートが生み出されることを学びました。
「より品質の良いもの」を追い求め励んでいらっしゃる「エリタージュ」社や「ベトカカオ」の方々は、「ものづくり」に携わる人として本当にカッコよかったです。私も今、目の前にある仕事や直面している課題に対して全力で向き合っていかなくてはいけないと感じました。

小山シェフ、貴重な経験をさせて頂き本当にありがとうございます。研修で学んだことを仕事に活かすことで、お客様に恩返ししていきます。