es koyama WINTER GIFT MAGAZINE 2021
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ていた。 それでも、色々と試作をする度に特徴が見えてきて、あるとき「あぁ、これは使えるな」と思った瞬間があった。 一般的なチョコレートを含ませた生地で焼いたお菓子は、冷蔵庫に入れるとクッと固まるが、このホールフルーツは冷蔵庫に入れてもほとんど固まらないことを発見した時だ。 だから、「この特性を生かすと結構面白い食感のお菓子ができるな」と考え開発に生かした。 その特徴が一番活かされているのが、「ホールフルーツチョコレートケーキ」。 はじめはテリーヌという名前にしようと思い、今まで創ってきたマロンテリーヌや宇治抹茶のテリーヌのレシピを変化させて試作をしたが、結局チョコレートに入っている、このカカオポッドの繊維がボディになってくれて、テリーヌのようなねっちりとしたものにならずに新しいタイプのチョコレートケーキになったのである。 チョコレートを使った焼き菓子でありながら、冷やしても締まらない。 だから、しっとりほろっとした食感のまま、口の中でスッと溶ける。 そしてフルーティーな酸もほのかに感じつつ、カカオの余韻はしっかりと感じられるのである。 ザッハトルテでやろうと思ったのは、今まで僕が創った味が気に入っていないわけではないが、一度これでやってみて出来上がってくるものが想像と全然違うのかどうか、というのを見たかったからだ。 比べてみると明らかに違う。 これまで僕が求めていたザッハトルテの本質がそこに、特に生地の中にはあるなと感じるものができた。 偶然と言えば偶然の産物ではあるが。 この試作をして完成も間近だったとき、たまたまうちのスタッフがウィーンからホテルザッハのザッハトルテを取り寄せており、久々に少しいただいて、「あぁ、この食感や濃厚さ、生地とコーティングのバランスが本場だな」と感じたが、濃厚さやずっしりした感じというか、そのあたりがホールフルーツチョコレートを使ったザッハトルテとどこか同じ方向を向いているな、という感覚があった。 こちらを召し上がっていただけるのは少し先のバレンタインシーズンになるが、ぜひ楽しみにしておいてほしい。 こうして様々な試作を通してこの新素材のことを、身をもって理解していったわけだが、ホールフルーツチョコレートは、いくら「チョコレート」という馴染みのある名前の材料であっても、今まで使っていたチョコレートの一部をそれに置き換えて、という単純な変換では成り立たないような新しい素材。 前述したが、カカオフルーツ1個全体を100%としたら、今までのチョコレートはその30%分。 ホールフルーツは残りの70%も加わったものなので、それを考えるだけでも今までのチョコレートとは全く違うもの、というのが伝わるだろうか。 つまり、今の状況は、チョコレートと初めて出会った先人が、これをお菓子づくりに生かすにはどうしたらいいかを一生懸命考えていた時代と同じような状況、ということになる。 使い方の分からない未知の素材との遭遇である。 ただ、今回分からないところからスタートしたが、カカオポッドの繊維を入れることによってしか生まれない質感や食感があるということに気づくことができた。まだ試作はしていないが、もしかしたらバウムクーヘンには向いているかもしれない。 食物繊維がいい働きをして生地がしっとりとしていい感じになるのではないか、という気がしている。2

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