es koyama WINTER GIFT MAGAZINE 2021
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 ホールフルーツチョコレートとどれだけ真剣に向き合ったかが伝わっただろうか。 その一方で「開発者がどう使ったらいいかわからない素材って、そんなことあるのか?」と疑問が浮かんだかもしれない。 メーカーさんにも契約されているシェフがおられて、自社商品を使ってたくさんのメニュー開発をされているのが一般的だが、今回のホールフルーツ~はそういったことを飛び越えて、世界中に声をかけたのである。 背景には、業界を引っ張っていかなければいけないという責任や、もっと考えを同じにする競合他社が現れて業界全体の取り組みにしていきたい、という声かけの側面もあるのかもしれない。 また、細かい部分では国の違いで味の感じ方も用途も違うので、求める味が違うという点である。 サンフランシスコのイベントの場で、各国のシェフがステージで感想や印象についてコメントをする時間があったが、実際にフランス人は「このままでは酸味が強すぎるから、弱めてほしい」というリクエストを出していた。 そういった意見をしっかり聞いて開発に活かすことが、世界を巻き込むうえでは必要不可欠だと考えたのだろう。 しかし、実はこの後に述べる理由のほうが的を射ているかもしれない。 それは、「カカオポッドを捨てずに使うことでごみを減らせるし、カカオ生産者の皆さんの収入も増加する」という理由である。 それが第一の理由であれば、なるほど、どう活用されるかわからないまま出来上がったものなのだということも理解できる。 今まで捨てていたところまでがチョコレートになるのであれば、「すごいな」と思うのが普通だ。 しかし、「そんなに美味しいわけではないから使えない」となってしまう未来も容易に想像ができる。 環境や健康に興味のある人は、一度は買ってくださると思うが、タブレットチョコレートだけの状態では長くは市場に残らないだろう。 ノンシュガーを謳うならそれしか方法がないのだが、実際はそのままでいただくのはちょっと難しいと思う。 こういった素材が現れる頻度が高まってくる予感のするこれからの時代、パティシエ・ショコラティエの使命は、世の中のSDGsの流れの中で生まれてくるであろう“世界初の素材”と対峙して、正しく理解してとにかく美味しいものを生み出すこと。 環境に配慮した良い物も、初めは話題性などで多くのお客様に手に取っていただけるかもしれないが、一過性のものに終わる可能性はあるし、実際にそうやって消えていったものも山ほどあったと思う。 だから、今後のチョコレート業界の発展そのものを持続可能にする上では、素材をどう捉え、どう向き合っていくのか、ということをしっかり深掘りしたうえで発信することがすごく重要なのだ。 例えば牛乳などの動物性油脂を使わない、アーモンドミルクやココナッツミルクなどの植物性のミルクを本格的に使用したミルクチョコレートもたくさん出てくるだろう。 実はこれを書き始める前に、 タイガーナッツというあまり聞き覚えのないナッツを練り合わせたヴィーガン向けのチョコレートを持ってこられた業者さんもいらっしゃった。 こういうパターンはこれからもどんどん増えてくると思うが、本当にその素材を理解して使いこなせて「こういうものを作るときにぴったりな素材が見つかった」「この新しい素材のおかげで今まで不可能だったことが可能になった」といったことがあるならば、また、それが世の中の役に立つものであるならばこれからもそういった素材に興味を持って、商品開発に利用させていただくと思う。 そういったものが、単なる流行りではなく、根強くこれからもずっと残っていくためには、その素材を使いこなした美味しいお菓子を生み出して、それを消費者の皆さんに美味しいと感じていただかない限りその循環は成立しない。 小山ぷりんやカスタードクリームにも使用している氷上乳業様の牛乳を通してエスコヤマが実行している「美味しい循環」とはまた少し違った、新素材を通して、「美味しい」がまた次の「美味しい」へ繋がっていくような「美味しい連鎖」を生み出していかなければならないのである。3「美味しい」が次の「美味しい」を繋ぐ

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