19.10.15 (1/3ページ)
Vol.12

パティスリー改造計画 ビハインド・ストーリー
小山進 16年目のモノづくりの覚悟

SEASON 01
Gnenesis of es koyama : エスコヤマ誕生

暗中模索のカオスから生まれた 独自のエスコヤマ・スタイル


『お前はいったいどんな店をつくりたいんだ?老舗の◎◎みたいな店?それとも郊外型の△△か、多店舗展開の□□みたいなタイプ?だって今のケーキ屋は△△系か□□系、それとも◎◎風か、そのどれかに決まっているだろう?』
これは今から16年前、当時はまだ何もなかった三田の丘の上にエスコヤマをオープンするにあたり、サポートに来てくださった先輩方から尋ねられたことだ。


いや、違う!私がつくりたいのは、どんな「系」にも「風」にも属さないオンリーワンの店。どこかにすでにあるお菓子屋を真似たものではない。オープン前の店やお菓子の構想はその時点ではまだ私の頭の中の想像でしかないもので、それが家族やスタッフ、さらにはお客様の元へと広がっていない状態では、いったいどんな結果を招くかは未知数だ。私は先輩方に「どんな店になるかは、やってみないとわかりません」と答えると、「まったく何を考えているんだ」とあきれられた。


正直言って当の私自身もその具体的なヴィジュアルをはっきりと思い描くことができていたわけではなかったが、その時イメージしていたのは、小山ロールと小山流バウムクーヘンを主力商品として展開すること。そして、まだ地元の生産者さんの知り合いもいなかったが、近隣で採れたフルーツやミルクや卵を提供してくれる人たちがそのうち現れ、土地の豊かな恵みにあふれたお菓子を創れるだろうということ。そうすれば、この都心から離れた三田にも、きっと遠くからでもお客様が来てくださると信じていた。


しかしながら、エスコヤマがオープンして1週間も経つと、私はこの店に数々の「足りていないこと」があることに気づき始めた。予想をはるかに上回るお客様が続々と訪れてくださったことで、店頭には連日、朝早くから長い行列。小山ロールを買われるお客様、生ケーキだけを買われるお客様、さらには焼き菓子などのギフトを買われるお客様などが小さな店内に混在していて、効率の良い販売ができていない。しかも、午前中には小山ロールも売り切ってすぐに店を閉め、4時間ほどでまた小山ロールを仕上げると30分ですぐに完売。こんなことの繰り返しでは、いつかお客様の不満が爆発してしまう。整理券を配り、店内の行列も整理して小山ロール、生ケーキ、バウムクーヘンと目的別に行列を分けたりなどして凌いだが、それでも焼け石に水のような状態だった。


SEASON 02
Beginning of creation : クリエイションの始まり

お客様の想いをひとつずつ形にして築いた コンプレックス・ワンダーランド


そこで考えたのが、この待ち時間に楽しんでいただける他の店をつくるということだ。パティスリーと隣接した土地にカフェ「es LIVING hanare」や「es Boulangerie」、コンフィチュールとマカロンの店「co. & m.es」などを相次いでオープンさせた。


また、バレンタインシーズン以外はゆっくり商品を選んでいただけるようにとつくったショコラトリーは、やがて錚々たるクリエーターの方々の手によって、「Rozilla」へと進化。子どもだけが入れるお菓子屋さん「未来製作所」とともに、子どもたちが本物に触れ、感性を育てる空間としての役割を果たしてくれている。


またその一方で、小山ロールは予約でも買えるようにと、ギフトサロンの「KOYAMA EX!」も開設してその受け渡しなどを行うようにしたが、そこでもまた行列。「予約したのに行列に並ぶとはどういうこと?」とついにはお客様からもお叱りをいただいてしまったため、デコレーションケーキのオーダーと受け渡しを独立させるべく「夢先案内会社FANTASY DIRECTOR」をつくった。これによってギフトサロンでの時間をよりゆったりと過ごしていただけるようになっただけでなく、夢いっぱいのデコレーションケーキの世界観を特別な空間で最大限に楽しんでいただけるようになった。


このように、エスコヤマの誕生からのストーリーを駆け足で振り返ってみてもわかるとおり、最初は漠然としたイメージだけで走り出したこの店に、明確なフォルムを持たせ、それぞれが個性あふれる店の集合体「エスコヤマ」として成長できたのは、明らかに私一人の意図や力だけではない。それは、エスコヤマに何度も足を運んでいただき、ロールケーキやバウムクーヘンの行列に並び、待ち、それでもそのひと切れをおいしいと言って食べてくださった方々。そして、私と一緒になってお菓子を創り上げ、販売のシステムを創り上げてくれたスタッフたちだ。


私はエスコヤマを立ち上げるときに、自分一人でアトリエに閉じこもって黙々と自分の好きなお菓子だけを創り続けるようなことは望んでいなかったが、かといってどんどん規模を拡大してあちこちに出店したいとも思っていなかった。まずは自分の感性が納得するモノづくりを行うこと、そしてお客様が快適にお買い物をしていただくことを大切にし、そのために足りないモノ・コトを一つずつ補充していったことの集大成が2019年のエスコヤマ。私はもちろん、お客様やスタッフ、すべての人々の想いによって形づくられている、お菓子のワンダーランドなのだ。


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