1.小山シェフの旅~パリ・ベルギーから得るインスピレーション~2006.6.1(ベルギー)最終日。ベルギーの気鋭のパティスリーを訪れる
天才シェフ、デュコブ氏のお菓子にベルギーの国民性が光る

朝9:00。フランスからベルギーへ向かう国際高速列車「タリス号」でブリュッセルへ。西出パティシエが研修をさせていただくパティスリー「Ducobu」へ向かいます。「Ducobu」のオーナー・シェフであるマーク・デュコブ氏は、お菓子のワールドカップ「クープ・ド・モンド」でショコラ部門のベルギー代表選手として出場した人物。ちなみに、その前回の「クープ・ド・モンド」はあめ細工のフレデリック・スケルター氏、前々回はピエール・マルコーリーニ氏が出場しています。
ベルギーでは案内役を佐々木さんが務めてくれました。彼は19歳でベルギーへ渡り、大学を卒業後、現地で最もポピュラーなパティスリー「Mahieu(マイユ)」で腕を磨いた気鋭のパティシエ。この2月に満を持して、現地で自店をオープンさせます。
佐々木さんとブリュッセルの駅で落合い、そこからタクシーで約30分。「Ducobu」に到着しました。デュコブ氏に厨房を案内していただいたり、お菓子を囲んで質問をしたり、あっと言う間の1時間でした。
デュコブ氏のお菓子はあめ細工のようなピエスモンテ(=工芸菓子)から、日常的なケーキまで、見るほどにシンプルな中に光るものがあります。デュコブ氏や佐々木さんの話では、「世界の流行を、ベルギーの伝統=『シンプル』の中にどう表現していくか」がベルギーでは要となるよう。佐々木さんはこう読み解きます。「ベルギー人のルーツは、質素な国民性を持つ民族。質素ゆえに余計な部分はそぎ落とし、大事な筋だけを表現する。だからシンプルな中に温かさや家庭的なものがあります。また一方で、ベルギー人は新しいものが好き。その結果、斬新なものを伝統に調和させる感性が磨かれてきたのです」。
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国民的人気のマイユが「青」の演出に挑む意味

2時頃。「Ducobu」で西出パティシエとデュコブ氏に別れを告げ、佐々木さんの古巣、ストッケルの「Mahieu」へ向かいます。白とベージュの穏やかなトーンの店内を歩き、厨房も案内していただきました。その後、さらにイーペルにオープンして間もない新店へ。中に入ると、S字を描くモノトーンのラインや、足元から照らす柔らかな光の演出など、どこもかしこもスタイリッシュ。従来のマイユとは対極をなすスタイリッシュな空間表現がなされていたのです。
「『Mahieu』はオーナーが代変わりをして、まずはお菓子に斬新さやモダンさを加えた。そして今度は店構えです。イーペルの店はある意味で実験的で、床の大理石などにブルーを取り入れつつ、随所に木を使って温かみを出し、従来のお客様にも安心していただける工夫をしています」と佐々木さんは語ります。「『Mahieu』のオーナーはいつかスワロフスキーのような深いブルーをお店に表現したいと考えているのです。本来、スイーツでは青色はタブーなのですが、時代の流れとして挑戦が可能になってきたのですね」。
あの「Mahieu」が、国民的に幅広い層に愛されているあの「Mahieu」が、まさかあの切り口になっているとは…。この旅の最後にベルギーに来て、私はようやく今回の旅の手応えを感じました。
パティスリーが個性の表現に挑む。日本、ベルギー、フランス、そして世界中で、そういう時代に来ているのかもしれませんね。

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マジパンはベルギーでは国民的なお菓子。ショコラをかけてそのまま食べたりする

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厨房で岡田パティシエは返事をするまで「ボンジュール」と言い続け、マイユの職人さんたちを笑わせた

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夕食はベルギーの1921年創業の老舗レストランで、現地の名物料理「ワーテルゾーイ」などをいただく
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帰りの電車の中で、ショコラの味あてクイズをする大杉ショコラティエと小山シェフ



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