vol.25
「人を雇うこと」


庭師松下として6月に独立して以来、初めて人を雇うことになりました。
と言ってもアルバイトですけどね。
たまたま私の奥さんのお友達が仕事をやめて暇だから、少し仕事手伝おうか?と言ってくれて。
これは願ってもない偶然。ずっと忙しかったから少しでも手伝っていただけるのであれば大助かりです。実際、人を本格的に雇うほど金銭的に余裕はなかったけど、アルバイトなら正直そのへんも助かります。
 とにかく、少し手伝ってもらえるだけで十分、というわけですぐにお手伝いに来て頂きました。幸い、この女性は少し園芸の経験があるのでずぶの素人ではありませんのでその辺も助かります。渡りに船とはまさにこのことです。
早速、パティシエ エス コヤマのお庭で落ち葉拾いや雑草抜きなどの仕事をしてもらうことにしました。
 アルバイトとして始めて2週間ぐらいたったある日、コヤマシェフとお食事をする約束になっていたのですが、その食事に今回アルバイトの女性もいっしょに食事に連れて行ってもいいかお願いしました。というのも、コヤマシェフと話をすることで何かいい刺激を受けてほしかったからです。その日食事が終わり、次の日の朝、コヤマシェフから電話をいただきました。
「話があるから事務所に来てくれ」と。
すぐシェフのいる事務所を訪れてお伺いしたお話は、
「今朝、お前のところで働いている彼女と会ったが、何の挨拶もなかったぞ。
今日、俺を見つけたら、昨日はごちそう様でした、と一言挨拶するべきじゃないか?お前そんなことも教えてないのか?お前ちゃんとお前が大切にしているものを彼女に伝えてるのか?」といったものでした。

 この「感謝の気持ち」はコヤマシェフがとても大切にしていることです。私がコヤマシェフのライブに行った次の日は「ライブ来てくれてありがと。」とわざわざ言ってくれるし、直接言えない時には必ずメールが来きます。この部分は私としても絶対大事にしたいところだったのに、このときはノーマークでした。いや、厳密にいうと、「このアルバイトの彼女はとても礼儀正しく気の利く方だったので、ちゃんと挨拶するだろう。」とたかをくくっていたのでした。


この後、シェフから次のようなメールをいただきました。

「人を雇うという事はその人の人生を預かることや。」


この時、すぐにはこのメールに対する自分の理解の甘さを気づくことができませんでした。この挨拶の件はその後彼女と話をして解決したつもりでしたが大間違い。今回の件は、私が大切にしていることを伝えきれていなかった、という事ではありません。今回の本当の問題点に気が付いたのは彼女が、「次の仕事が見つかったから」、と言って私の前から去って行った時でした。
「人が会社をやめてゆく時、本当の理由を言って辞めてゆく人はほとんどいない。だから、そのことを自分に厳しく考える必要があるんや。」とある時コヤマシェフが話していたことを思い出しました。その時、考えたことは、いや考えたっていうより、痛く感じたことは、今回の問題は私自身の人を雇うという心構えの問題だったのだということです。自分は大して人を雇うことの意味を認識できていませんでした。いや、もっとかっこ悪い話で、まだ、腹が据わっていませんでした、っていうのが本音です。情けない。バイトだから、とか思ってどこかで言い訳していたんだと思います。だから、この挨拶の件でもその他のことでも、アルバイトの彼女といろんな話をしても彼女の心を打つことはなかったんだと思います。アルバイトだったら安く済むし、時給で払うから勝手が効く。そうやってなんだかんだ言って責任逃れしている人の言うことなんて誰も耳を傾けるわけないですよね。

「人を雇うことが人の人生を預かること」と考えたとき、とても大きな責任を背負いこむことに気づかされます。その責任と正面から向かいあうために、腹を据えないといけなかったんです。それができないとアルバイトであっても人を雇うことはできないのは当然。いや、一般的にはそれでもいいかもしれませんが、私の場合はそれじゃダメです。だって私はパティシエ エス コヤマの庭師です。

読者のみなさん、パティシエ エス コヤマのホームページにある採用情報をご覧になったことがありますか?
まず一言目に
「エスコヤマで働くことはたいへんです。なぜかと言うと、ここはスタッフが『仕事を覚える』のではなく、『人間を磨く場』だと、シェフの私が考えているからです。」
というフレーズで始まります。一度このメッセージを読んでください。
【エスコヤマ採用情報ページ】
コヤマシェフの人を雇う姿勢、大切にしていることがよくわかる募集のメッセージになっています。

独立をしたときにシェフからはなむけにいただいた言葉、
  「しっかり稼いで早く人を雇え。一人での独立はだれだってできる。独立の意味は人を雇うことにある。人のことで本気で悩める人間になれ。そのことで自分自身成長できるし、お前が後輩に何を伝えていくのかが俺は一番楽しみや。」

今更ながらに、この頂いた言葉のその奥にある深さや、コヤマシェフが超えてきた壁の大きさを感じてしまいます。
パティシエ エス コヤマには社員だけで57名。アルバイトやパートの方を入れるとスタッフは220名。私が感じたその言葉の重さはシェフが背負う責任の重さなんでしょうね。日々エネルギッシュに仕事をしているシェフが背負っている責任の重さは誰にもみえませんし、シェフはそんな重いものを抱えて走っていることを周りに感じさせません。しかし、その重さを想像しただけでも、自分にはその重さをかかえながら日常をそんな風に過ごすことは・・・・。
さて、今回の日記を書くにあたり、シェフから頂いたメッセージの意味を改めて考えてみました。前よりも少し人を雇う事の責任とちゃんと向き合うことができたかな。いや、どうだか。今回の日記は面白いところが全くないでしょ。つまり、私にはこの話題で人を笑わせることは今はできないぐらい、余裕がありません。(関西人として笑いのない文章は恥ですが、今回だけは面白くない私を許してください。)自分の思いをしっかりと伝えて人を募集すること、そしてそこに賛同してくれる人を雇う事。コヤマシェフが当たり前のようにやっていることですが、それが、私の来年の目標です。

Merry Christmas.





更新日10.12.24


vol.30 「マダガスカルに行くぞ」

vol.29 「サプライズのその先」

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vol.27 「目に見えないもの」

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vol.25 「人を雇うこと」

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vol.23 〜今年たどり着いた場所〜

vol.22 久住章のトイレット

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