シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 33

コヤマシェフと行く、カカオハンティング第三弾
「カカオの源流を訪ねて」
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 「長旅ご苦労様でした。早速ですがホテルに向かいましょう。そして、とりあえず、シャワーを浴びられてリフレッシュしてください。お疲れでしょう。」と小方さん。確かに、日本からコロンビア、移動だけでも相当ハードでした。
挨拶も早々に、空港から車でホテルへ向かいます。車で移動中、今日のスケジュールについて説明をしていただきました。
「今日は到着したばかりで申し訳ありませんが、早速山登りをしていただきます。シエラネバダ山脈の西側の山裾にある小さな集落まで歩いて1時間程だとおもいます。まずはそこのカカオを見て頂きます。」
今回の旅のスケジュールはかなりタイト。せっかくコロンビアまできたわけだし、出来るだけ沢山のカカオを見て、カカオを味わってほしい、と小方さんが特別に沢山の産地巡りのプランを用意してくれました。

 ホテルに付いて荷物を預け、シャワーを浴びて、早速出発です。
今日は総勢8人。カカオ・デ・コロンビアから小方さん。小方さんの右腕のナチョさん、農業技術指導員のギジョさん。運転手さんにコロンビア側のカメラマン。そして、我々はコヤマシェフ、石丸さん、そして、私、松下です。
車で揺られて2時間程。途中まではきれいな道でしたが、山に入って道が悪くなってきたんでしょうね。 だんだん車の揺れが大きくなってきました。

日本では経験出来ない車の揺れに、「さあ、久しぶりのカカオ産地に来たぞ!」とテンションがあがります。
しかも今回はカカオの本場。揺れる車の窓から外を覗くと、飛び込んできたのは長いフライトの疲れも忘れるくらい美しく神々しい雰囲気をたたえたシエラネバダ山脈でした。

シエラネバダ山脈はコロンビア最高峰クリストバル・コロン山(海抜5755m)を頂きに尾根を東西南北に広げた三角形の大きな山脈です。
今回訪れた集落はシエラネバダ山脈の西側の地域ここに来た理由は幻のホワイトカカオ、カカオ・ブランコを見るためです。

 少しカカオ・ブランコの説明をしておきますと、カカオ・ブランコの「ブランコ」とは白を意味する言葉。多くはカカオ・クリオロに分類されますが、通常紫色をしたカカオの種の中がこのカカオ・ブランコは白いのでブランコ(白)と呼ばれているそうです。
一般的に中が白いということは、タンニンやアントシアニンの量が少ないという事を意味し、それゆえ、渋みが少なく、味わいがやわらかで(フルーティーは発酵の技術に委ねられます)、ここシエラネバダ山脈を含め、コロンビアでも限られた地域でしか見ることのできない希少なカカオだそうです。(種の中が白くても渋い味のものもあります。)

 次いでカカオという植物の特徴も説明をすると、カカオは通常、海抜1200mまででしか栽培できません。実際、標高が900mを超えると成長が遅くなります。
また、乾燥したところでも栽培は難しく、塩害にも非常に弱い。苗木の時は直接長時間太陽があたる事を嫌い、反面、大きくなるとそれなりに日当りが必要なのです。
栽培は繊細でさまざまな条件を選ぶ植物です。それゆえ剪定などの管理も必要になってくるので、他のプランテーション(ヤシやゴムやコーヒーなど)に比べると、農家さんもなかなかカカオを生産する事に二の足を踏んでしまうというのが現地農家さんの実情だそうです。

 車で行ける所まで行き、そこからは山登りです。車を降りるとすぐにインディヘナ(原住民)らしき男性がいました。「アルワコ族の人ですよ。」と小方さんが早速挨拶をしてました。
手にはひょうたんに駒をくっ付けたようなものを持っていて、
何かを口の中に入れて噛み続けています。

「彼はコカの葉を噛んでいるのですよ。」と小方さんが説明してくれました。
「コカとはコカインの原料となるコカのことですか?」と聞くと、「そう。あのコカ。けれども、コカインはコカの葉に含まれるアルカイドという成分を生成して出来たもので、きつい幻覚作用を催しますが、この葉っぱを食べたくらいではそうはなりません。むしろ、葉っぱを食べる目的は海抜の高いところで肉体労働をする時のための高山病予防だそうです。
政府は彼らインディヘナにのみ、コカの葉の栽培を許可しているのです。」その説明を聞いて少し安心しました。というか、コロンビアに来る前に得た情報によるとコロンンビアはコカインのメッカ。

コロンビア=コカイン
コカイン=マフィア・山岳ゲリラ
マフィア・山岳ゲリラ=誘拐
つまり
コロンビア=恐ろしい

インターネットで得た情報のおかげ、つい「コカ」という言葉だけで反応してビビってしまいました。

因みに、アルワコ族の人が手に持っているものは、ポポロという男性だけが携帯しているもの。中には貝をローストして粉砕したような粉が入っています。
コカの葉を口に入れ、噛んだ唾液を棒の先に付け、棒をポポロの中に差し込みます。そうすると中に入っている貝の粉が棒の先端についてくるのですが、それをポポロの周りにつけるのです。何か考え事をする時にこの作業をよくするそうです。
よくわからない儀式みたいなものですが、コカを噛む男性は若く見えますがポポロには年季が入っており、
「カカオを見に来たつもりでしたが、我々はすごい所まで来たような気がする。それにしても、このアルワコ族の人、トムソーヤの冒険に出てきてた男の子に似ているな。っていうか、小方さんは一人でよくここまでたどり着かれたなぁ。」としみじみ小方さんの行動力に驚きました。
因みに、小方さんがこのシェラネバダ山脈に目をつけたきっかけは、
「ただ何となく、ここには何かある」と直感したからだそうです。スゴイ直感力。

 「さあ、今からはしばらく山歩きです。おつきあい下さい。」と小方さん。
なぜか歩いている途中、別のアルワコ族の人がいました。この男性は民族衣装を着ていますが、石の上で死んだように眠っていました。なんでわざわざこんな眠りにくいところで寝ているのかよくわかりませんでしたが、これも一つの儀式か何かなと思ったりもしたのですが、何なくその姿はおっかなく、そっと横を通りすぎました。(因みにこの時一番ビビっていたのは写真家の石丸さんでしたが。)しかし、人の気配を感じたのか彼は石の上からむくっと起き上がると、我々の後ろを付いてきます。しかし、どうもふらふらしているようだったので、「コカの食べ過ぎでは?」と恐れていたのですが、どうも前日に飲み過ぎたようで二日酔いで石の上で寝ていたそうです。しかし、腰には日本刀のような大きな刀をぶら下げています。
「二日酔いとはいえ、頼むからねぼけてそれを振り回さないでくれよ。」 と願いながら山道を進みました。

 山の中はいろいろな植物が生えている豊かな森でした。
「今までの産地とは全然違うな。」とコヤマシェフが感慨深そうにあたりを見回しています。この7月コヤマシェフと写真家の石丸さんはインドネシアのスマトラ島に行ってきたばかりです。その景色の違いに驚いている様子でした。

 山道を1時間程歩いたでしょうか、急峻な下り坂の途中に小さな家があり、その周りにカカオの木がありました。
この辺りで400本ぐらいのカカオが植わっているそうですが、山の中で全貌がつかめません。
カカオを見つけるやいなや、石丸さんがシャッターを切ります。撮った写真をコヤマシェフと確認しながら、首をかしげています。
「今までの写真と何か違う。なんだろう、奥行きがすごい。」二人とも驚きが隠せない様子です。確かに、ここは今までのカカオ農園とは全く違います。 「これは農園というよりも山の中に自然にカカオが生えている感じやな。これが本来の姿、ってことなんかな。」

樹勢も枝振りも地形のせいか、それとも剪定の仕方の違いなのか、今までのものより背が高く、上で広がっていて、より自然な形をしています。小方さんが説明してくれたのは、「ここには、昔からのカカオが生きてる。」ということだそうです。
ここでは人とカカオの歴史が古く、今カカオを栽培している人たちの、ずっと前のカカオが生育しているそうです。ここがカカオの自生地かどうかは別にして、ここにあるカカオの種類はとても古い可能性があるということです。
「カカオの中身をチェックしてみましょう。」と小方さんが技術指導員のギジョさんにお願いして熟れたカカオを採取してもらいます。カカオは熟れているかどうか、素人ではなかなか判別できません。

「少し色が混じっていますが、種の中が比較的色が薄くないですか?」と小方さんが種の断面を見せてくれました。それを石丸さんが写真におさめます。
中には同じカカオポットの中に真っ白の種と紫色の種の両方が入っているものもあります。これはカカオが自然交配して、特徴が混じりあってしまった結果だそうです。

 少し山の中を移動して次の農家さんのお家にお伺いすると、そこには樹齢60年のカカオがありました。プランテーションの場合、通常25年から30年で生産の寿命を終えるカカオの木ですが、ここには60歳のカカオがいまだにカカオの実をつけています。
 もちろんですが、他の産地ではそんなに古いカカオの木を見た事はありませんが、この環境なら納得が行きます。この時思い出したのは、奇跡のリンゴの木村さんの話でした。以前コヤマシェフと木村さんが会食をする機会があった時に私も同行させていただきました。その時に聞いた木村さんの果樹園の作り方とここのカカオはよく似ているように思えました。実際に木村さんの農園に行って見た事はありませんが、恐らく同じようなことが土の中でおこっているように思えました。
 もうしばらく歩くとまた別の農家さんがあります。そこには少し大きな家族が住んでおり、雰囲気のよい土の壁の家がありました。ここにも古いカカオの木があって、古い木舟の中でカカオを発酵させていました。

 ここの地域は主に昔からある古いクリオロ系のカカオとカカオ・ブランコが多く植えられていましたが、種類を限定するような言い方をすると語弊があるので、あえて「系」という言葉を使っています。
カカオの種類の話は別紙を参照してみてください。

 1日目からかなり刺激的なカカオとの出会いがあり、つい夢中になっていると、「遅くなりましたが、近くの農家さんが昼食を用意していますので、そちらに向かいましょうか?」と小方さんが声をかけてくれました。
「お、昼食!」と急に元気になる私。産地を訪れた時の楽しみの一つは間違いなく食事。特に農家の方が作ってくれるものは今まで外れた事がないように思います。

 この日のお昼はサンコッチョと呼ばれる地鶏でだしをとったスープと地鶏のもも肉とキャッサバ、食用バナナなどのプレート。プレートの地鶏はスープのだしを取った後のものですが、だしを取ったあとの鳥にも関わらず身がしっかりしてしかも、鳥自体の味が濃い。「農家さんの家で頂くサンコッチョは薪で調理しているので少しスモーキーな香りがなんとも言えないですよね。田舎ならではですね。
鳥にかかっているソースはクリオロソースと言って、『クリオロ』とは『地元の・その土地の』という意味があるんです。」と小方さんが教えてくれました。スープも鳥も本当に美味しいしかったです。デザートにはボッカディージョと呼ばれるパート・ド・フリュイのようなお菓子を頂きました。

 時間が経つのが早く、あたりが暗くなる前に帰路につかなければなりません。暗くなって運転できるような道ではありませんので、今日はこのへんでホテルに戻る事になりました。
ホテルに戻るとパーティーの準備がされていたので、理由を尋ねるとたまたまその日はコロンビアのバレンタインデーでした。コロンビアではバレンタインデーは友人や恋人に感謝を伝える大事な日だそうです。
 その日の夜はコロンビア産のウィスキーとラテンミュージックで今回の旅の安全を祈ってみんなで祝杯をあげました。