シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 33

コヤマシェフと行く、カカオハンティング第三弾
「カカオの源流を訪ねて」
5 / 7

4日目

 朝は6時には起床し、今日は海岸沿いを散歩。
昨日のビーチと違い、漁師さんとすれ違った以外は誰もいません。ここはシエラネバダ山脈の真北側。山から続く森が海岸沿いぎりぎりまで続いています。
「今回の旅で何回『スゴイ』って言ったか分からんぐらい何回もスゴイって言ってるけど、この景色もほんとうにスゴイな。」相当いろいろなものを見てきたはずのコヤマシェフですら、この旅では感動しっぱなしでした。

シエラネバダ山脈から続くジャングルが海岸沿いまで続いているのを一望できる景色は圧巻です。手つかずの熱帯雨林は今にも恐竜が出てきそうな雰囲気でした。

 7時30分にこのバンガローを出て、昨日訪れたアルワコ族のお宅を訪問します。残念ながら子供達は小学校があるので、今日は会う事が出来ないはずでしたが、我々に会うために、子供達はどうしても学校を休むと言って聞かなかったようで、子供達も含めてみんなで待っていてくれてました。

 「会いたいから待っていてくれる。」そういうシンプルな暖かさがここにはあります。口には出して誰も言わなかったが、コヤマシェフも石丸さんも、僕も、なんかすごく心が暖まった、いや、心が洗われたような感覚になりました。
 皆に挨拶をしてから、発酵テストの様子を見に行きました。仮設の小屋のような所に堅そうな南洋材で出来た大きな桶が2つ並んでいます。片方には5日目の発酵を終えたところで、もう一つの桶には昨日の雨で発酵を終えて乾燥させる行程に入っていた豆が雨宿りの為に桶に戻されていました。
5日目の桶には酢酸発酵が続いており、予定通りの状況ですが、問題はその横の桶のカカオ豆。これは酢酸発酵を終えて乾燥させるべき豆ですが、雨宿りの為にこの桶に戻した結果また発酵を始めてしまいました。
それを見た小方さんはアルワコ族の人たちに丁寧に今進んでいる発酵と小方さんが望む発酵が違う事を丁寧に説明しておられました。

 発酵という行程はとても難しい行程で、ここで失敗するとカカオ自身が持つ個性(フルーティーさや酸味、苦み)が失われる可能性があります。1日発酵が長くなるだけでも、カカオ豆の味は全然違ってきます。
だから、「今発酵させているカカオ豆はどういう味に仕上げるか、というイメージを持つ必要があるのです」、と小方さんが説明してくれました。単純なマニュアル化をしてもこのカカオ豆の個性を引き出す事は出来ないのです。

「だから、アルワコ族の皆さんには、まず味のイメージを持ってもらうように、カカオ豆のテイスティング、出来上がったチョコレートのテイスティングを繰り返し行ってもらっています。」
恐らく日本でもここまで考えて農作物を作っている人は珍しいと思います。普通作物の作り手は収穫量を意識しますが、味を意識する事はあまりありません。しかし、小方さんは収穫量を上げるために畑作りの指導も行いますが、最も大事なのは香味と強調します。
「いくら個性的なカカオがあっても、それをチョコレートにするまでの段階でだめにすることはいくらでもあります。コロンビアのカカオの価値を高め、国際的に競争力をつけてゆくためにも良いものを作る基盤が必要なのです。
また、コヤマシェフの様に、他のクライアントが使いこなすことが難しい個性的なクーベルチュールを望む方のご要望に答えるためにも、すべての行程で品質と味の管理が出来ていなければなりません。」と言った後、「でも、いろんなことをみんなに分かってもらわないといけないので、なかなか思ったように進まないんですけどね。」と笑顔で付け加えていました。
しかし、彼女とアルワコ族の関係を垣間見させて頂きましたが、そこにはとてもしっかりとした信頼関係が出来上がっている様に思いました。その信頼関係こそ、すべての基盤だと思いました。

 この後、カカオ・ブランコの接ぎ木苗を植えている場所も拝見させて頂きました。まだ小さな苗です。今年は日和が続いたせいで、多くの苗が枯れてしまったそうです。

苗に水をやるために、井戸まで掘ったそうですが、それでもなかなか追いつかず、かなりの量の接ぎ木苗が枯れてしまったそうです。
しかし、その中でもしっかりとした苗木が何本か残っており、そのうちの一本には小さな花が咲いていました。それを見つけた小方さんはとても嬉しそうでしたが、ここまでたどり着く時間と彼女の努力を思うとなんとも泣けてきました。

 今少しずつ接ぎ木苗を増やして、ここでカカオ・ブランコを生産し、発酵、乾燥まで行うそうです。それが、いつか日本のエスコヤマに送られてくる日を迎える事を心より願いつつ、アルワコ族の村を離れました。コロンビアのカカオの産地はどこに行っても心に響きました。

 さて、充実したシエラネバダのカカオの旅は終了です。これより、サンタマルタ空港に向かってこの旅で5回目の飛行機の移動です。次の目的地はコロンビア南部のポパヤン。途中のメデジンという町で飛行機を乗り換えたのですが、ここの空港はコロンビア内で一番きれいな空港だそうです。
メデジンはコロンビアの第2の都市でありながら、首都ボゴタを凌ぐ断トツの発展を遂げています。それは、昔世界屈指の麻薬王が地元であるこの土地に出資して整備されたそうです。さすが、コロンビア。

 ポパヤンにはカカオ・デ・コロンビアの倉庫と工房があります。つまり小方さんのチョコレート活動の拠点です。ここで、コロンビア各地から来るカカオを集め、それを検品し、チョコレートを作る作業に入ります。 倉庫もまだ工事中だと聞いていましたが、とても整備されたきれいな倉庫でした。
カカオ倉庫の横にはこの地域のコーヒー農協倉庫とコーヒーの品質管理室があります。ポパヤンはコーヒーの名産地。ここにはこの地域でできたコーヒーの約50%が一手に集まるようで、巨大倉庫がどこもコーヒー豆の袋で山積み。高い所は20mを越える高さまでコーヒーの袋を積み重ねています。
そこから港に運ぶためトラックに積み込むのですが仕事は手作業。ここの労働者はこの作業を毎日行っているそうで、彼らは筋肉ムキムキ。記念に私もコーヒー豆をトラックに積み込む作業を手伝わせていただいたのですが、コーヒー袋の重さと埃(麻袋の埃は特にスゴイ)でまともに目があけられませんでした。この作業を1日すると思うとぞっとしました。
小方さんはここの肉体労働者を敬意を込めて「マッチョマン」と読んでいましたが、現地に来ないと彼らのような労働者の存在は分からないですね。

 「せっかくですから、コーヒーの品質管理の部屋も案内します。」とここでもやたらに顔の効く小方さん。もちろん、さっきいたマッチョマン達にも小方さんは絶大の人気がありました。
「カカオ豆の袋が重いから、トラックに積み込む時は彼らに手伝ってもらったりもするの。」とマッチョマンですら手懐けている小方さんにはつくづく尊敬しました。

 研究室ではここに集まった豆を検品するために、豆の大きさを計ったり、豆を焙煎し、香りを確認したり、豆を粉にしてお湯を入れて試飲したりしていました。
「コーヒーテイスティングをしてみませんか?」とここの責任者らしき人がテイスティングルームに案内してくれました。10数種類のコーヒーが並んでおり、それを空気と一緒に吸い込む様にして口に含んでテイスティングをするのですが、基本的には飲み込まないようです。慣れない間はコーヒーを空気といっしょに吸い込むのが難しかったのですが、どっちにしても、味音痴の僕には難しかったですが、それでも良い経験でした。コヤマシェフとコロンビアに来ない限りこんな経験はできませんからね。

 倉庫を案内していただいた後は、カカオ・デ・コロンビアの工房にお招きいただきました。工房では3人のコロンビア人スタッフが仕事をされていました。皆とてもいい緊張感を持ってお仕事されており、

「日本人に教育されたという事がよく伝わって来ました。」とコヤマシェフも小方さんのスタッフたちに感心されていました。各工程でいろいろなデータを採り化学の実験室さながらの管理体制でした。
コンマ1までの温度調整を豆の種類に応じて行う所なんかは、小方さんのもの作りの姿勢を如実に現しているように思いました。

「美味しいものの裏側には、必ず、丁寧で思いやりのある仕事が隠れている。」コヤマシェフがいつも口にしている通りです。工房の壁には「夢」という書がかけられていました。お父さんが小方さんに送ったものだそうです。
この工房には沢山の人たちの思いが詰まっているんですね。カカオで繋がる思いがしっかりこの工房で一つになって成熟しているのを感じることができました。かならず、その思いは世界中の人に感動を与えると思いました。

 工房を訪問した後は、首都ボゴタに向かいます。
今日はボゴタで一泊。早いもので次の日がコロンビア旅行最終日。
この日の夜は少しボコタを観光。町は沢山の人で賑わっていました。
「もちろん危険な地域もありますが、この辺は安全です。ただし、スリには用心してくださいね。」と小方さんがボゴタ旧市街を案内してくれました。

町には屋台や露天商がいろんなものを売っていました。ビデオやおもちゃ、ソーセージやスープのようなもの。その中に、ハーブの花束を屋台に結んだお店があります。大きなお鍋から湯気が立ち上り、近くによると湯気とともにふわっとハーブの香りがします。
「アロマティカと言うハーブティーのようなものです。レモングラスやカモミール、ミントにバジル、パッションフルーツ、蜂蜜などが中に入った飲み物。体が暖まりますよ。」と小方さんが教えてくれました。ボゴタは標高2600mで夜になると少し肌寒く、アロマティカは冷えた体を暖めてくれるちょうど良い飲み物です。

「せっかくですし、味見しませんか?」と言う事で、一杯頂きましたが、これは美味しい。コヤマシェフも「これは面白いな。こんな飲み物あったら美味しいやろうなぁ、と昔から思ってたけど、やっぱり世界のどこかには存在するんやな。屋台に付いているハーブの花束も良い感じやしな。」と、いつにも増して感慨深そうにこのアロマティカを味わっておられました。
そして、帰国するやいなや、「エスコヤマ風アロマティカ」が完成しました。エスコヤマ風アロマティカにはエスコヤマのお庭でできたカリンが入っているそうです。早く飲んでみたい。

 古いレンガの壁の続く旧市街はライトアップされていて、とても雰囲気がよかったです。そして、しばらく歩くと、ボゴタで最も古いチョコラーテのお店に行きました。因みに、創業1816年だそうです。
チョコラーテというホットチョコレートのことで、こちらコロンビアではチョコレートと言えばこのホットチョコレートを指すそうで、国民の約50%は毎朝このチョコラーテを飲むそうです。しかし、このお店で出されたチョコラーテには大変驚きました。その理由は付け合わせに、出てきたチーズとチマキです。

「これがこちらのお店のスペシャリテです。チマキとホットチョコレートって以外な組み合わせでしょ。私もここにはじめて来た時、スゴイ驚いたんですよ。まあ、とりあえず、味見してみてください。」とすすめられるままに、コヤマシェフがホットチョコレートを飲み、チマキを交互に食べてみると、
「ん、これ、スゴイ組み合わせやけど、以外といけるな。チマキの中にチキンが入っているけど、このチキンも美味しいわ。」とコヤマシェフに続きて石丸さんと僕も頂きましたが、確かに美味しい。チマキのご飯は少しカレー味でした。 チョコラーテを飲んでチマキを食べるとまた、チョコラーテを飲みたくなり、そうすると、またチマキが食べたくなる、というハマってしまう組み合わせでした。想像しにくいとは思いますが、確かに美味しかったです。