シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 33

コヤマシェフと行く、カカオハンティング第三弾
「カカオの源流を訪ねて」
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 (最終日)

最終日はコロンビアコーヒーの最高機関であるコロンビアコーヒ生産者連合の品質管理機関「アルマカフェ」にお邪魔しました。
ここはコロンビアのコーヒー豆の品質管理の最高機関で、この機関のお墨付きなしに、コロンビアの豆を国外へ輸出する事ができないそうです。首都ボゴタのとてもおしゃれな町の一角の近代的な建物の中にその事務所はあります。
ビルに入ると、中はコーヒーの香りが立ちこめており、白衣を着た研究員の方が中を案内してくれました。まさにコーヒー研究所。
ここではコロンビアのコーヒー生産量や産地別生産量、産地別のコーヒーの特徴や収穫時期など、コロンビアコーヒーにまつわるさまざまな情報を説明していただきました。
ここにはコロンビア全体のコーヒー豆が集まっており、昨日に続き、ここでもコーヒーのテイスティングをさせていただいたのですが、今日は産地別のコーヒーテイスティングです。

 6種類の産地のコーヒーがテーブルの上に並べられていました。これはあくまで、コーヒーの品質管理チェックのために行うのですが、これ以外に豆の外観のチェックや化学分析も行っているそうですが、一番大事なのはやはり人間の舌で行うコーヒーテイスティングだそうで、テイスター(味を見る人)になるためには試験があるのですが、コーヒーテイスティングでもっとも大事なことは、「どんなときでも同じ味に同じ評価を下せること。」とこの研究室のディレクターさんが教えてくれました。

 次は実際のテイスティングです。
1から6番までカードがあり、その横にコーヒーが並べられています。今回のコーヒー豆はアンティオキア県、ナリーニョ県、サンタンデール県、ウィラ県、カルダス・リサロダ・キンディオ、最後はカウカ県。産地名は伏せた状態で、コーヒーカップに番号がふってあります。
1番から順番にコヤマシェフが一つ一つ吟味しながら、テイスティングをします。6種類のコーヒーを全部テイスティングし終わると、もう一度コヤマシェフがはじめからテイスティングをはじめました。その時はもう少しゆっくり目に。

 2回目のテイスティングが終わると、
「一回目にテイスティングしたときは、コーヒーとしてテイスティングをしました。どれも個性的で美味しいですが、自分はやはりチョコレートとの相性が気になったので、2回目はどれがチョコレートに合うかを考えながら、テイスティングしました。」
「いかがでしたか?」と研究所の方がコヤマシェフに感想を求めると、
「飲みたいものとチョコレートに合わせたいものは全く異なりますね。コーヒーを飲むときはやっぱり、まろやかで味が全体的にバランスが良いものを選ぶし、逆にチョコレートと合わせる場合は、個性がないとぼやけてしまう。
あと、2回目にテイスティングした時に気がついたのですが、少しコーヒーがさめた時の方がコーヒーの個性が分かりやすかったですね。チョコレートも常温の食べ物だから、チョコレートに合うコーヒーを選ぶ時は、さめた状態で飲むべきかもしれません。」とコヤマシェフが答えると、
「なるほど、それはとても新鮮な意見です。我々の考えとは全然違いますね。とても興味深い。興味のある産地のコーヒーはどれでもプレゼントするので、おっしゃって下さい。」と言っていただいたので、コヤマシェフの実験用に4つの産地の焙煎する前のコーヒー豆を頂いて帰りました。
この研究所を見学させていただいて、改めてコロンビアに置けるコーヒーという農産物の大切さがよく分かりました。日本に帰って缶コーヒーを飲むときも、ついコロンビア産のものを飲むようになりました。なんでもそうですが、裏側の努力する人たちを知ってしまうと、つい応援したくなるんですよね。

 コーヒー研究所を後にして、次に向かったのはコロンビアNo.1の人気を誇るレストラン。今日、ここでハリー・サッソンシェフとカカオ・デ・コロンビアのコラボイベントがあります。そこにコヤマシェフが登場するのです。

 コロンビアNo.1のレストランはトップシェフ ハリー・サッソンさんというオーナーシェフのお店です。お店は古くて大きな2階建てのレンガ造りの建物です。周りには樹齢100年は越えているであろう針葉樹や大きなユーカリの木があり、ひとたび中へ入ると、とてもモダンで洗練された内装にスゴイ数の席にスゴイ数のスタッフの方がお仕事されていました。
入り口の所でハリーシェフがお出迎えしてくれて、お店の中に案内してくれました。

早速イベントの打ち合わせをし、今日使う厨房の場所や道具、オーブンの確認をします。

「やった事のないところで、ケーキを作るのは楽しいんや。」とコヤマシェフは広い厨房の中を楽しそうに確認しておられました。
「ボールが浅いな。その割に泡立て器がおっきいねん。」日本との違いを見つけるのが楽しいようです。
 融通無碍。
 コヤマシェフが厨房で作業をする姿をみていると、この言葉が浮かんできました。コヤマシェフという人はどんな状況であれ、その中でできる最も美味しいお菓子を考え、作ることができるのだと思いました。
 今日のメニューは「スフレ・シエラネバダ・コヤマ」とシエラネバダのカカオを使ったチョコレートを使ったスフレ(小麦粉は使いません)と
「これはカカオの産地でしか、絶対に出来ない。やってみたかった。」と念願がかなったように皆に語った、カカオパルプのガナッシュ。
アシスタント兼通訳に小方さんが入り、ハリー・サッソンシェフのお店のスイーツ担当のスタッフ2名もお手伝いをしてくれます。

 今から作業する場所を丁寧に片付けて、作業台をダスターできれいに拭き清め、作業開始。
 チョコレートの固まりを切って、ボールに入れる。アシスタントの女の子に湯煎を頼んだが、うまくいきません。
「お湯がすくなすぎるから、もう少し、お湯を足して。ごめんね。もう少しチョコレートを細かく切っといたらよかったな。」と言いながらチョコレートを湯煎したことのない女性のアシスタントに湯煎の仕方を教えます。

 いつしかコヤマシェフの周りには、レストランのスタッフが集まり始めました。皆、コヤマシェフの仕事に注目しています。

「とてもきれいな仕事をする。」 「初めてみるやり方だ。」など口々に話をしていました。

「スゴイ、簡単に卵白が泡立つな。」とコヤマシェフ。
小方さんとその事を話していると、現地のスタッフの方が
「もしかしたら、標高のせいじゃないですか」と。

「なるほど、そうかもしれん。ここで、卵白をたてる時には泡をたてすぎないように注意した方がいい。」と細かく今回の作業の注意点をさらいながら、現地のスタッフの方に作り方を教えていました。
「こんな高い標高で卵白たてたことないけど、なるほど、そうかもしれんな。」と化学好きのコヤマシェフは嬉しそうに納得してました。

  ハリー・サッソンシェフも気になるようで、フラッと現れてはコヤマシェフの仕事を見ています。

 生地を入れた型をオーブンにいれて、約50分。その間20分置きに中をチェックします。
「今の間に昼食をとってください。」と用意されたのはハリー・サッソンシェフのお店のフルコース。初めに出てきたのはタケノコ。コロンビアには沢山竹が生えていて、日本と同じく竹をたべる文化があるのにびっくりしました。どれも美味しく、さすがコロンビアでNo.1ですね。
昼食の後、ハリー・サッソンシェフにPCで今日のイベントのために用意したボンボンショコラの写真を見せながら、その説明をしていました。名前の説明や味の組み立て方、表現したい思いなどをコヤマシェフが説明すると、ハリー・サッソンシェフは味わう様にその話に耳を傾けていました。すると、ハリー・サッソンシェフが
「コヤマシェフにどうしても食べてもらいたいものがある。」といって4種類のアイスクリームを持ってこられました。
 レベルの高い味覚と味覚の対話、これには私が入る余地はありません。二人でいろんな話をして、とても盛り上がっていました。コロンビアと日本、遠く離れて、味覚も違うはずなのに、美味しいと思うものはお互いに共感できたりするんですね。
 「スフレ シエラネバダ コヤマ」はとてもうまく仕上がり、パルプのガナッシュもコヤマシェフが納得する出来映えでした。
「私の念願です。初めて作ったけど、思った通りの味。親子丼と同じ感じのもの。合わない訳が無いと思っていました。」

とイベントの時、コロンビア人のお客様の前でパルプのガナッシュの事を語っておられましたが、誰よりも今回のお菓子に驚いていたのは、ハリー・サッソンシェフだったと思います。
彼はコヤマシェフの作る小麦粉を使わないスフレを食べて、
「信じられない。こんなもの今までに食べた事がない。」という様に首を横に降っていました。パルプのガナッシュに至っては、終止目をつぶりながら試食し、「スゴイ」の一言でした。
後日このイベントの事はコロンビアでも有名な料理雑誌に取り上げられていました。

イベントもうまくゆき、みんなで片付けをしていると、ハリー・サッソンシェフが「今晩私のお気に入りのコロンビア料理をごちそうしたい。また来年のガストロノミーウィークにはぜひともコロンビアにきてほしい」、という話にまで話が続いてゆきました。
今日はコロンビア最終日でしたが、飛行機は深夜0時15分出発なので、まだ時間があるし、せっかくのハリー・サッソンシェフのお誘いをお断りするのも無粋だ、ということで夕食をごちそうになりました。あまり時間がなかったので、残念ながらハリー・サッソンシェフとはゆっくりお話する事はできませんでしたが、それでもハリー・サッソンシェフ、コヤマシェフ、一流シェフならではの高い次元の味のコミュニケーションがとても面白かったです。
そこには言葉や人種などいっさいを飛び越え、今初めてあったとは思えない濃密なコミュニケーションが成立していたように思います。コヤマシェフはコヤマシェフの作るお菓子でハリー・サッソンシェフに「コロンビアのチョコレートの可能性」いや「小方さんの作るコロンビアのチョコレートの可能性」を伝えていました。
これは言葉では伝える事ができないことだと思います。コヤマシェフが作るお菓子があったからこそ、伝えることができるメッセージです。
 コヤマシェフはよく言います。

「そこでしか出来ない事、つまりカカオの産地でしかできないこと。それをされると我々は太刀打ちができないし、本当に悔しい、って思うんです。悔しい、って言うのは僕にとっての最大の褒め言葉です。できれば、悔しい、って思わすようなことをしてもらいたいんです。絶対ここではそれができると思いますし。」
 どこの農産物の産地に言っても、コヤマシェフが指摘するのはこの一点。そこでしか出来ないもの、その人にしかできないこと、それを見てみたいし、食べてみたい、そして、そこに価値があるということなのです。コヤマシェフから見ると、カカオの産地でしかできないチョコレートの表現はまだまだ無限大の可能性を秘めているのでしょうね。