シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 33

コヤマシェフと行く、カカオハンティング第三弾
「カカオの源流を訪ねて」
4 / 7

コロンビア3日目

 朝、6時15分集合。

 出発の前に、カカオハンティングの恒例行事。

「ランニング」です。ビーチを3人でランニング。
朝のビーチにはまだあまり人気が少なく、漁師さんが捕った魚を並べ初めていたり、老夫婦がゆっくりと散歩している程度でした。
海は穏やかで、朝日は海のすぐそばまで裾をのばすシエラネバダ山脈の上から登ってきました。軽いストレッチの後、ゆっくりジョグ。40分の軽めのランニングでした。日頃からランニングを欠かさないコヤマシェフにはこの3日、ランニングする時間がなかったので今日はどうしてもランニングの時間を確保したかったようです。因みに1年前、ベトナムで一緒にランニングした時と比べて明らかに体がしまっているのにびっくりしました。
「まだ、しぼるつもりや。」と意欲満々。空港の待ち時間でも、
「丹田に意識を集中して姿勢を正すだけでも、体型が変わるから」と石丸さんと僕に空港でインナーマッスル強化セミナーをしていました。これも恒例です。

 ジョギングの後に軽めの朝食。コヤマシェフは朝食をほとんどとりません。「こうやって日本を離れている時は内臓を休ませるチャンスやから。」と。
普段はお菓子の試食や会食など仕事で食べることが多いので、ちょうど良い機会なのかもしれませんが、それにしても、ここまでストイックに体作りをしている人はそうはいないと思います。皆さん、これがコヤマシェフの推進力を支えている裏側なんですよ。結局この旅を終え、体重はマイナス2kgだったそうです。

 8時30分に小方さんがロビーに迎えに来てくれて、朝から向かった先はアラカタカ村にあるペドロさんの農園です。このペドロさん、彼はカカオ生産の名人で面積あたりの収穫量が通常の5倍もあるそうです。その理由は管理方法です。彼はとてもきれいに剪定をするようで、カカオの場合、剪定技術が病気予防や収穫量などに影響を及ぼす割合が高いようです。
今回は実際に私も剪定体験をさせて頂きました。指導をしていただいたのはカカオ・デ・コロンビアの技術指導員であるギジョさんで、彼に枝を選んで頂きながら鋏を入れていきました。指導をしてもらいながら剪定を進めてゆくと、彼がとても有能な技術指導員であることがわかりました。枝の選び方、切り方、樹木全体の考え方が分かりやすく、剪定はとても丁寧でした。正直もう少し大雑把だとタカを括っていましたので、少し驚きました。しかし、彼は有能ですが、農園のカカオの剪定跡を見るとやはり荒さが残っています。それは恐らく刃物が原因だと思います。現地で使っている鋏を使わしてもらいましたがどうしても切れ味が。

そもそも、枝を切るということは、植物に傷をつけるということ。その傷口がきれいかどうかで、傷の治りの早さが違います。治りが遅いと当然雨を媒介して菌が入り枝が腐ってきます。どの産地に行っても、剪定技術はとても気になりましたが、今回の体験でとても多くの事が理解できたように思えました。改めて、日本の剪定技術は日本の優れた刃物に支えられているんだなぁ、と思いました。

 「この農園はシエラネバダトリニタリオ教室やな。」とコヤマシェフがうなった程いろいろな種類のトリニタリオがありました。
そもそも、私はカカオの分類について誤解しておりました。

カカオはクリオロ、トリニタリオ、フォラステロ。この3種類だと思っていました。いや、確かにそうなのですが、小方さんは「この3種類で言い切ってしまうことこそ、そもそもの誤解の元なんです。」、と言います。
なぜなら、カカオは違う種類同士で花粉が混じりやすいのです。つまりそれは自然交配によって遺伝子が混じりやすいということです。またトリニタリオもオリジナルは1番から100番に分けられていて、その番号によって特徴がちがいます。クリオロだって、フォラステロだってそう。ベネズエラではクリオロと言われるものが最低でも30種類あると言われています。
 農園の中にあるペドロさんのお家でこの農園にあるカカオのテイスティングです。糖度計を置いて、一つ一つ糖度も計ってゆきます。

「小方さんが『生のカカオの"種"を食べて下さい』と言ってる意味がよくわかりましたよ。たしかに、カカオの "種"を食べると、そのカカオの特徴がよくわかりますね。」とコヤマシェフはカカオの豆を食べながらとても納得した様子です。時折、遠くの方を見ながらゆっくりカカオを味わっておられました。この時だけはしゃべりかけることができません。そして、この時に新しいものが生まれることが多いのです。
因みに、コヤマシェフには味をしっかり記憶し、その味を思い出すだけで、舌に味が戻ってくるそうです。今食べたカカオの"種"の味を食べながら、インプットされた記憶の中の味を舌の上で組み合わせているのかもしれません。これはスゴイ能力だと思います。味のインプット、これはコヤマシェフが日々行っている積み重ねですね。

 小方先生によるトリニタリオ教室を終え、石丸さんの撮影も終了したまさにその時、大粒の雨が。あっと言う間に大雨。「この地域ではこういった雨がよく降るんです。これがカカオにいいんですけどね。」と小方さん。「もちろん、カカオには水が必要ですが、それだけではなく、カカオの花の受粉を受け持つのは小さな蚊の仲間で、蚊が発生するためには蚊の幼虫であるボウフラが住む小さな水たまりが必要なんです。」ということでした。

 車に走って戻り、次はシエラネバダ山脈の北側に住むインディヘナのアルワコ族のお宅訪問です。そこでは彼らが行っている発酵テストの視察をします。

 このシエラネバダ山脈の北側には現在6部族のインディヘナが集落を形成しており、中でもアルワコ族は最大規模でおおよそ2万人もいるそうです。ここは元々紀元前2世紀よりタイロナ族が住んでおり、その文化の一部を引き継ぐアルワコ族の人々がこの山に生育するカカオ・ブランコを「母なるカカオ」と称して昔から崇めてきたそうです。
白装束のような衣装がこの部族の民族衣装。白い帽子はアルワコ族が大いなる母と慕うシエラネバダ山脈を意味し、それと同化することで自らを母なるシエラネバダの長兄と考えているそうです。因みに、アルワコ族の皆さんが肩からかけているのはモッチーラという手作りのかばんで、一つ作るのに1ヶ月もかかるそうです。

 現在小方さんが取り組んでいるプロジェクトの一つがアルワコ族のカカオ・ブランコの保全活動です。アルワコ族の住む地域には、種の中が白いカカオが生えているですが、品種改良された商業用の新しいカカオ、つまり種の色が紫色のカカオがこの地にもたらされてから、彼らは種の色が白いカカオは不良カカオだと思い込んで、一部を切り落としてしまったそうです。「母なるカカオ」であるにも関わらず。
そんな中、小方さんはアルワコ族の人たちにその価値を伝える活動をはじめ、今では彼らが山の中で見つけてきたカカオ・ブランコの木の場所を教えてくれるまでになったそうです。見つけたカカオの木から接ぎ木を行い、それをこの集落の農園で育て始めているのです。
また、小方さんはカカオの生産だけでなく、アルワコ族自身がカカオ豆の発酵、乾燥まで行う事が出来るように指導している最中で、実際にそれが出荷に至るまでにはまだもう少し時間がかかるそうですが、ここで出来たカカオ・ブランコはゆくゆくコヤマシェフのもとに届けられるそうです。

 日が沈みかけ、あたりが薄暗くなった頃、アルワコ族の家族の住むお宅に到着しました。薄暗い山道を少し下ってゆくと、白い衣装を身にまとったアルワコ族の一家が家の前のテラスに集まってくれていました。
あたりの薄暗さとは対照的に、彼らの真っ白の衣装がぼんやりと光を帯びた様に見え、とても神秘的な光景に見えました。言葉は通じませんが、皆さんが我々の訪問を心待ちにしていてくれたのが雰囲気でよくわかりました。
遠巻きに子供達が興味津々でこちらのほうを見ています。こちらを見る子供たちの瞳は真っ黒で、顔立ちも明らかにヨーロッパ人よりも、我々アジア人に似ています。
小方さんが年長の方から順に丁寧に挨拶をしています。小方さんの後ろを子供達がついてまわります。その姿を見ていると、彼女がとてもこの部族から受け入れられていることもよくわかりました。続いて我々も挨拶をしてゆきます。
言葉はわかりませんが、なんとなく神聖な感じがしました。挨拶が終わるとさっきまで遠巻きに眺めていた子供達が少しずつ近くに寄ってきました。

 「この子ら人懐っこいな。」と言いながらコヤマシェフが子供達にこっちにおいでと手招きをします。一人の女の子を抱きかかえると、子供達がどんどんコヤマシェフの周りに遊んで欲しそうに寄ってきます。
「なあ、まっちゃん、日本人の子供はいつからこうじゃなくなったんや?」
全くその通りです。それの答えは僕にはわかりませんが、少なくともそれは子供のせいではないようにおもえます。残念ながら、我々の社会の仕組みがこのような人間関係や子供の好奇心を奪っているのかもしれません。
 いつの間にか完全に日が沈みあたりは真っ暗になってきましたが、アルワコ族のお母さんがコーヒーを振る舞ってくれました。煮立てたコーヒーはとても香りがよく、とても美味しかったです。
アルワコ族の皆さんは今から海岸添いの集落まで行くそうで、今日の所は我々も失礼して、また、明朝にここに戻ってきて、カカオ豆の発酵テストを見学する事にしました。

 今日の宿はアルワコ族の集落の近くのカリブ海添いの隠れ家的バンガロー。石丸さんの部屋には拳大ぐらいのカニが出たり入ったりしていました。因みに、ここのバンガローは屋根があるだけで、外と中はイケイケの状態。
寝るときは虫除けの蚊帳を被って寝るのですが、コヤマシェフの部屋には小鳥が舞い込んだらしく、また、巨大蛾が部屋に侵入して(コヤマシェフは蛾が大の苦手)、あげくの果てにはトイレにサソリがいたそう。さすがシェフ、虫好きだけあってやたらに虫が寄ってきますね。
結局、小鳥は夜通し鳴き続け、また、ベッドの下からドンドンと爆弾が当たってくるような音で朝までほとんど寝れなかったそうです。ネタ的にはオイシかったんですけどね。