シェフと庭師Mの庭造り日記

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現在、エスコヤマのお庭を担当して下さっている庭師M(松下裕崇さま)のアシスタントスタッフを募集しております!ご興味のある方は下記の連絡先までお問い合わせくださいませ。

090-8520-8640(庭師:松下裕崇)

Vol. 34

みんな一緒

es koyamaのお庭の植物たちはまだ寒さの残る早春から様々な植物たちが咲き始めます。
スノードロップ、スイセン、クロッカスなど春咲きの球根たちがまず顔を出し、
彼らが咲き終わるころに、次は春咲きの木々達が花を咲かせてゆきます。
マンサク、トサミズキ。そして、今アジサイの花はピークを迎えつつ、ヤマモモの実も少しずつ熟してきました。
小山シェフの自宅のブラックベリーも、もうそろそろ収穫の時期を迎えることだと思います。
この時期には、小山シェフ自らブラックベリーの実を収穫するのが日課なんですね。
 いろいろな植物が芽を出し、花を咲かせ、実を付け、今年もお庭は夏の成熟したお庭に向かってゆきます。この時期の植物は人生を謳歌するがごとくたくさん茂っている、そんな中、あまり誰も気がつかないのですが、実は春一番に咲いた球根たちの葉っぱはもう生気を失ったかのように、倒れてしまっています。

ムスカリ
  小山菓子店前 これも春に咲く球根。着実に増えてきました。

枯れてしまったのかな、と心配になるのですが、そうではありません。来年春になるとまた彼らは一番に芽をだすのです。
 不思議ですよね。
なぜ、春咲きの球根たちはわざわざ寒い頃から芽を出し早々に花を咲かせるのでしょうか?
そして、なぜこれから暖かくなり、雨もたくさん降る時期を前に、彼らは枯れてしまうのか?

カフェhanare前「スノードロップ」
エスコヤマで一番早く咲く球根です。

 理由はそれが彼らの生きる戦略だからなのです。
スノードロップ、スイセンやクロッカス、などの春咲きの球根は背が低く、まわりの木々に背比べしても勝つことはできません。だから、まわりの植物が茂りだしたこの季節、彼らは周りの植物の陰に隠れてしまい、太陽の光の恩恵を受けることはできません。そこで、彼らが考えたのは、周りの植物たちがまだ葉っぱを茂らせるずっと前、2月ごろからに葉を出すということです。寒い時期には暖かい時期に比べて、光合成で生み出すエネルギーの効率は落ちますが、そうすることで、大木の木々の葉が出揃う2月から6月までの間は太陽の光を得て、光合成をすることができるのです。ただし、まだ寒い春一番に葉を出すにはエネルギーが必要です。そのため、彼らが編み出した技は、花が咲いた後、光合成で作り出されるエネルギーを来年の芽吹きのために球根に溜め込むという仕組みです。寒い時期に葉を出すためには、葉が寒さで凍らないようにしなければなりませんし、それには余分なエネルギーを使いますが、背の低い彼らは、季節は良いが、背の高い競合の多い中で戦うのではなく、環境は厳しいが競合が少ない時期に自分たちの居場所を見つけたのでした。それが、彼らの生きる戦略です。余談ですが、玉ねぎやニンニクなどの球根を食べると力がでるのは、つまり、生きるための力が凝縮したものを食べるからだとおもいます。
 少し擬人化したような書き方にしてみましたが、植物にとって大事なことは己の特徴を知り、弱点を克服し、それを最大限に生かし、自分の置かれた環境でどのように子孫を繁栄させてゆくか、ということです。

女子トイレ前 太陽はもろ刃の剣。
  これからの強い紫外線は植物の葉を痛めます。
ここは一日中、直接太陽が当たることはありませんが、
  逆に葉っぱが太陽で焼けることもなく、
やわらかい緑の葉が秋まで続きます。

 自然は厳しい。沢山の競争相手が存在します。つまり沢山の相手と戦わなければなりません。
 つまり弱肉強食。自然界の生物は見様によっては自分たちのことしか考えていないようにも思えますがそれもまた現実。厳しい現実の中で他人のことまで考えてられません。
 というのは、よく聞く話ですが、実は偏った見方だったりもするのです。
 私は日頃植物や虫たちの動きを見ていて、実は全く違うことを感じています。植物や昆虫、など自然界に生を受けたものは、皆「他の生き物のために存在しているようにおもえます。簡単にいうと、誰かの役に立つために生きているような気がします。植物だけではなく、昆虫、菌、微生物など自然界に生を受けたものは皆、何かの役割を担うのだとおもいます。
 たとえば、葉っぱについた毛虫は害虫扱いされますが、必ずしもそうとは限りません。もしかしたら、木がある種のフェロモンを使って、わざわざ毛虫を呼んでいるようにも思えたりするのです。クヌギにつく毛虫は徹底的に葉っぱを食べてクヌギを丸裸にしますが、実は葉の多いクヌギは台風の時に葉っぱに風を受けすぎて大きな枝から折れてしまうことがよくあります。(大木の枝が折れたらそこから蜜が出てクワガタやカブトムシたちは喜ぶのですが)葉をたべられたクヌギは葉の量が少ないおかげで、台風の風の影響を受けずに済みます。そして台風の季節が終わる頃には、丸裸だったクヌギは大きな葉を出し、太陽を葉いっぱいに浴びるぐらい回復しています。
 食べる、食べられるということだけで捉えると見えてきませんが、食べる方も食べられる方もそれがお互いに対して役に立っているように見えます。
 また、一見役に立っているのかよくわからない虫たちも実は見えないところで大事な仕事をしています。
 たとえば、ナメクジ。ナメクジなんていったい何の役割があるのか?と思う人もいると思いますが、オケラだって、アメンボだって、ナメクジだーって♪ 実はナメクジはオモトという植物の受粉を媒介する役割を果たしているのです。ナメクジはオモトの花を嘗め回す過程でナメクジの体に引っ付いた花粉がオモトのめしべに触れ、受粉が完了するのです。庭の中では彼らは見た目も悪く、動きもゆっくりで、ほかの植物を嘗めまわし、痛めてしまう害虫という認識が強いのですが、彼らも自然の中では大切な役割を果たす生物なのです。

 さて、話は急に飛びますが、小山シェフがお話されていたことの抜粋です。
 この前小山シェフが朝の朝礼でスタッフの方々に対してこんなお話をされていました。
「自分を知ることが大事。まず、己の弱点や自分の置かれている状況、役割を客観的に理解して、弱点をどのように克服するか、その置かれている状況で自分が一体何の役にたつだろうか?そこをしっかり理解し、周りの人の役に立つようにすれば、結果として自分の力がついてゆくのです。
これだけはよく覚えておいてほしい。自己の弱点を克服したとき、自然と自分の良さが前に出てくるから。でも勘違いしないでほしい。なんでもできるようにならないとダメ、といってるわけじゃないし、けっして、皆に小山進のようになってほしいと望んでいるわけではありません。最終的には自分の得意なことや、自分にしかできない仕事に集中しなければならない時期がみんな来るんです。その前に、己を知ることで、自分の弱点を補い、自分の特徴が生きるよう、そして、若い時から周りの人の役に立つ経験を通じて、自分という個性の輪郭を作っていってもらいたい。」

ロジラの丘にて。この種類のクレマチスは根本が影で葉は半日でも日が当たれば十分です。

 たまたまその場に居合わせたのですが、この話を聞いて「はっ」としました。
 小山シェフがスタッフに語っていたことを聞いて、植物も同じだと、感じました。植物は常に自分の弱点と向き合って生きています。また、人間も、誰かの役に立つために生きている、つまり、人間も自然も同じ理由で存在しているってことなんですね。本当にすごい話だったと思います。人間の社会も自然も見方によっては、「弱肉強食」にも「お互いがお互いのために生きている」様にもみえます。しかし、自分ひとりで生きているわけでもなく、また自分のために生きているわけでもないのだと思います。必ず、誰かに助けられて生きていて、逆に、誰しもが誰かの役に立つよう、役割を持って生まれてきているのだと思います。そして、自分を知ることで、自分の役割にも気が付くのかもしれません。小山シェフが言うように、誰かの役に立った結果、その人らしさが形づくられてゆくのでしょうね。そう思えば、自分は何のために仕事するのだろう、と悩んだり、人の仕事を羨んだりする必要はなくなります。
そのためにはまず、「自分を知る」、ってことが大事ってこと。
それは植物の生き方の原理とまさに同じだと思います。

小山シェフはよく言います、
「原理原則はなんでも一緒や」と。