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モトバイクに乗ること30分、気付けばすぐそばまで山々が迫ってきました。近くで見ると、遠くで見ていた時以上に山々は神々しいオーラを帯びており、そこの村に住む人々にさえ、その神々しさを感じるほどでした。山と村の境界があいまいな暮らしがそこにはあり、その山なのか畑なのかよくわからない山の中腹あたりで育てられたカカオにも特別な力が宿っているように思えました。
そこに今日の目的地、チリリケという村はありました。
村にはカカオ豆の醗酵所があり、そこで車を降り、食事もそこで頂いたのですが、ここはのんびりと食事を食べているような場所ではありません。
早く食事をすませて、「ちょっと散策してくる」と早々に小山シェフが席を立ちました。
それもそのはず、周りにはたくさんの鳥の声が聞こえてきて、我々を包むように大自然が目の前に横たわっております。山好きの小山シェフがじっとしていられるわけがありません。まずは早速、野鳥や虫探しです。
余談ですが、産地に行くと、たまにヨーロッパから産地を見に来ているショコラティエや料理人の方を見かけますが、どんな人よりも産地訪問を楽しんでいそうなのは小山シェフだと思います。
「楽しいって記憶はすごく頭に残るからな。楽しさと味が一緒に記憶されると、なかなか忘れないから、楽しさって大事だよ」とあるとき話しているのを聞いて納得しました。
「あー、この場所はもっといたいなぁー。本当に帰るの?泊りで来たかったな」
この村を歩きながら、小山シェフは少なくとも2,3度同じことを口にしていたと思います。それぐらいここはとても素敵な場所でした。
訪れれば訪れただけの新発見や新事実がカカオ農園にはあります。こちらの勝手なイメージでカカオ農園は温暖で湿度の高い場所、という思い込みがありましたが、今回のピウラのような場所でもカカオ農園があるのです。
「所詮、我々は数日間を使ってカカオ農園を訪れているだけの、旅行者みたいなものですよ。たくさんの産地を訪れたとはいえ、カカオ農園やカカオについてわかっているなんて、口が裂けても言えませんよね。自分たちが知っていることは断片的であり、本当に知らないことだらけです。ただ、ピウラに来てよかった。この場所を訪れ、生産者の方と出会い、この美しい景色や今自分が感じた感動を世界中の人に伝えたいと心から思えました。シェラネバダ(コロンビア)の時もそうでしたが、この思いがあれば、絶対いいショコラが創れます」と小山シェフは小方さんにお話しされていました。
今日はピウラの旅を終え、次の日にリマに戻ります。
≪7/8 本日はリマの、サロン・デル・カカオ・イ・チョコラーテ≫
今年も来たぞ!
昨年と同じ会場で、本を6冊重ねたようなオブジェのような教育省の建物の向かいにある近代的な建物の中で今年も開催されるこのカカオの祭典ですが、このモダンな建築と昨日までいたカカオの産地とのギャップについ戸惑います。ペルーのあちこちからカカオ農家の方がこの祭典に出店するのですが、彼らはこのモダンな建築物を見て何を思うのでしょうか?
会場に入ると、今年は少し雰囲気が違います。なんだか賑やかです。昨年は電気が来ていなかったり、トイレの水が出なくて、便器に絶望的な景色が広がっていましたが、今年は明らかに違います。
会場全体が明るいし、ブースの数も昨年に比べて多い気がします。トイレは掃除する方が常にスタンバイをしており、用を済ませた後を追い回すがごとく、掃除をします。
今年は、産地巡りに多くの時間を割いているので、この会場にいる時間は1日だけです。目的は小山シェフのデモンストレーションのため。しかし、その前に、ある若者のブースにお邪魔しました。
Dream of EVAという名前のお店で、ペルーで頭角を現してきている若いショコラティエ ビクトルに会いに行きました。彼は小山シェフのことを憧れているらしく、パリのサロンドショコラの際は会期中、ほぼ毎日小山シェフのブースに足を運んでいたそうです。
「ビクトルに日本から持ってきた今年のショコラを食べさせてあげたい」と小山シェフが新作のショコラ4種類を日本から持ってきました。
ビクトルは小山シェフが来ることを知っていたようで、彼も新作のボンボンと板チョコを準備しておりました。
まずはビクトルが小山シェフのボンボンを試食しました。
目を閉じながら、そして、時折うなずきながら、ゆっくり味わっておりました。一つ食べ終わる度に、感想を述べてゆきます。とても慎重に、言葉を選びながら、ゆっくりと感想を述べる姿に、小山シェフへの敬意を感じました。
「もちろん、どれもおいしいが、この2つ目のショコラはとても好きです。このショコラには森を感じる」とクロモジのボンボンショコラの感想を述べた時には彼の感性の強さを感じました。そして、クロモジを見たこともないペルー人に森を感じさせた小山シェフのショコラはすごいとしか言いようがありません。仕組まれたような話ですが、本当に、自然や森を感じるすごいショコラだ、とビクトルは大絶賛していました。
次に小山シェフが彼のショコラを食べる番です。先ほどよりも緊張した面持ちのビクトル。小山シェフは一つ一つゆっくり味見しながら、いろいろと彼に感想やアドバイスを述べてゆきました。話を聞くビクトルの真剣なまなざしは審査員の品評を聞いているような緊張感がありました。
後日談ですが、小山シェフがビクトルのチョコレートについて説明をしてくれたのですが、
「ビクトルのボンボンはベルギータイプで、つまりモールドを作ってガナッシュを絞るというスタイル。これはボンボンを生ケーキのように食べる文化のあるベルギーではいいのだけど、ペルーのようにチョコレートを食べる文化があまりないところには不向きなんです。鮮度が大事で日持ちがしない。あと、ガナッシュを絞るために、どうしても、水分を多く入れなくてはならなくて、そうすると、カカオの香りが薄まってしまう。しかも、絞るときにどうしても、気泡が中に入り、ザラッとした舌触りになりやすく、それがどうしても気になる。あと、ペルーではエバミルクのような生クリームを使うのだが、それは殺菌する途中に、メーラード反応を起こしてしまい、結果として、メーラード反応によるかすかな香薫が邪魔をしてカカオの香りを消してしまう。だから、ペルーの乳製品から水分を取るのではなく、アマゾンのフルーツから水分を取るようにすることが良いと思う。今回試食した中で、アマゾンのフランボワーズで創った板チョコがあったけど、あの発想が大事。あれは触感も面白かったし、おいしかったな」とビクトルのショコラについて説明してくれました。
「彼の成長を見届けるのも、ペルーに来る一つの理由になったかもしれないね。彼はガストロノミーの盛んなペルーに生まれ育っただけあって、彼のショコラは料理的。彼が今後どのようなショコラを作るか本当に楽しみ」と語っていたのは印象的でしたが、おそらく、彼のショコラが料理的な理由はもしかしたら、小山シェフの影響が強いのかもしれない、と思いました。憧れ、まねからスタートして、追いつこうと必死に努力して、なぜ小山シェフがクロモジやフキノトウでショコラを作り世界で発表するのかが本当に理解できた時、彼はペルーを代表するショコラティエになっているかもしれません。