シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 36

終わりなき旅
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 「管理の高さが品質の高さを生むのは当然のことですが、ここはとても綺麗にしている。僕はこの豆が好きですね」コヤマシェフは乾燥している豆のテイスティングをしながら、地域ごとの味の違いを確認しています。

 「この地域はとても雨が多く、雨季にはほとんど毎日雨が降ります。しかも、夜になると湿度が100%となり、昼に乾いた豆が夜の間に空気中の湿気を吸います。だから、しっかりと乾燥させるためにも、地面で乾かすのではなく、わざわざ地面より高くしてより均等に乾燥をするように心がけております。いままでたくさんの工場を見て、勉強してきました。きれいなところも、そうじゃないところも。素晴らしい工場はお手本に、そうじゃない工場はそれを反面教師に学びました。この場所の気候、環境的な条件を加味して、たくさんの工場を参考にした結果です」とデビッドさんは謙虚にお話されておられました。

 「さて、この醗酵所の見学はこの辺にして、カカオの畑を見に行きましょう」

 さらに舗装されない道を車でさらに進むこと20分。
「さあ、着きましたよ。ここが我々のカカオ農園です」と案内されたのは、ジャングルの一部のような場所。決して、高木がたくさんあるような鬱蒼とした森ではないが、高木と低木とがうまくまじりあった森のような畑のような場所です。
「あ、ここはアグロフォレストですか?」と小山シェフが尋ねると、
「そう、ここはアグロフォレストです」とデビッドさんが答えてくれました。

 「最近、ブラジルの方でアグロフォレストのことを耳にしたことがあるけど、ここが実際のアグロフォレストなんですね。すごい、本当にいろいろな植物が植わっているのですね。一度(アグロフォレストには)来てみたかったんです」とアグロフォレストを目の前に感慨深そうなコヤマシェフ。

 「さあ、この目の前の丘にカカオを植えております。さあ、見に行きましょう。」とデイビットさんの案内で森の中に入ってゆきます。


 「ここには特定の品種を選んでカカオを植えているのではありません。ここにもともとあったものと、それらが自動的に交配したモノを植えております」
とデビッドさんが独特のカカオを見せてくれました。
「これ、見て見て!めっちゃ面白いカカオがある!」と小山シェフが示す先には、とりのくちばしのような形の茶色いカカオがあります。
カカオ畑はなかなかキツイ斜面ですが、なんのその。こんな時は、小山シェフはスイスイ登ってゆきます。

 「おーい!こっち来てみて!」とデビッドさんを追い越して小山シェフが先頭を進んでいました。カカオの木で姿は見えませんが、声のする方に向かうと、丘の尾根に。そして、そこには驚くほどの絶景が目の前に広がっておりました。

 「ここに来られて本当に良かったわ。この景色を見たらとにかく納得するな」
と高い丘の上からはこの森の全体の起伏が俯瞰してみることができました。カカオの木、高木は材木にするための木だそうです。あと、トウモロコシに、ライムとオレンジの間のような味の柑橘系フルーツ。正面に見える丘に数匹の牛がゆったりと歩いていました。

 これはまさにアグロフォレストリーです。
アグロフォレストリーとは、簡単に定義づけるなら、『同じ土地で、ほぼ同時に、樹木と農作物(あるいは家畜)を組み合わせて育てることにより、総合的・長期的な生産力の向上を目指すシステム』だそうです。
有限の資源である「土地」を、林業・農業(あるいは畜産業)いずれかの立場から切り離して利用するのではなく、総合的に利用していこうとするこのシステムは、プランテーション農業に比べて、環境負荷の少ない農業方法であるといわれています。
カカオはラテンアメリカのアグロフォレストリーにおいて重要な植物の一つで、カカオは日陰を必要としているため、比較的高木の横で簡易に生産できる植物なので、その高木には果樹を植えたり、材木になる木を植えたりすることで、カカオだけでなく、多角的に収入を得ることができます。しかも、農園の植物の多様性から、中長期的に環境を痛めることなく、農業を続けることができます。現在熱帯雨林では焼き畑によるプランテーション農業がおこなわれているため、たくさんの森が消失するだけでなく、プランテーションは短期的に収穫量の高い農業ですが、その分、土壌の劣化を引き起こします。土壌が劣化すると、収穫量が減り、また、別の森を焼く、といったぐらいにどんどん森を焼いてゆきます。この農業方法が今でも主流で、年間でたくさんの熱帯の森が焼かれています。ただし、アグロフォレストの方がいいし、それにしたらいいんじゃないの、という簡単な話ではなく、大土地所有者とその労働者の問題、政治家の腐敗など、たくさんの問題が絡みあうなか、デイビットさんのような意識の高い方でなければ、なかなかこのアグロフォレストリーを導入することはまだまだ難しい現状があるように思えました。

 これが、農園最後の日。帰りは4wdのピックアップ車の荷台に乗って醗酵所まで帰りました。

たまたま、今日は満月で、熱帯の森に浮かぶとても大きなお月様が見えたので、夜のジャングルで車から降りて、しばらく月を眺めていました。
日本からはるか遠くのジャングルに来て、最後にとても美しいお月様を見ることができたのは、熱帯雨林の森にすむ神様からのご褒美のように思えました。日本で見るお月様よりも、少し、大きくて明るい気がしました。