シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 36

終わりなき旅
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 さて、今年もあっという間にカカオの旅が終わりました。

 さて、今年のペルーの旅はいかがでしたか?

 「まず、ピウラに訪れることができて良かったね。ピウラ・ケマゾン・カカオブランコでできたクーベルチュールは5,6年前から使っていたが、それはどんなカカオ(フルーツとして)の味で、誰が育てたのか、また、誰がどのように醗酵させたのか。このクーベルチュールができるまでの背景や、携わって下さった方々の思いを知ること、これはつまり僕にとってそれぞれの味の理由を探ってゆくことなのです。自分が使うクーベルチュールのプロセスを知ることができれば、気付きの深さに影響が出るのは当然で、だからこそ、いろいろな発想が勝手に浮かんできます。

 あとは、今回の旅でチリリケのカカオを使う前にその地を訪れることも大きな収穫です。
この地を見て、生産者の方に出会えて、このカカオを使って自分がチョコレートを創れることがうれしいし、ワクワクする。この感覚は子供の時に、親や近所の人を驚かせたい、と思う欲求に似てるわ。このワクワクがあれば、絶対においしいものができるとし、このカカオで世界中の人が驚く顔を早く見たい」
(ちなみに、チリリケのカカオは、早速今年のタブレットチョコレートのシリーズに新作として加わっているそうです)

 「僕は毎年産地に行くようにしているけど、もちろん、産地に行かなくてもチョコレートは作れるし、僕も以前はそうでした。でも、産地に行くことでカカオをより深く理解できるし、現地で感じ、現地で見つけ、現地で発想したことは常にリアルだと思う。反面、産地を毎年訪れてしまったばっかりに、今は産地を知らずに創作はできなくなってきました。知るってことはとても怖いですね。
僕がショコラのリーフレットを創り、産地のことを伝えるのは、産地に行ったことをアピールしたいのではなく、誰がどのような思いでそのカカオを創ったのかを純粋に伝えたいからです。そして、お客様と一緒に彼らの創るカカオから生まれたチョコレートを頂き、素晴らしいカカオができた喜びを共有したいだけ。今年のブドウの出来によって、どんなワインが生まれるかを待つような感覚です。

 今感じることは、産地に来なければ、産地に来てカカオのことを知らなければ、いや、南米のフルーツや、ガストロノミーを知らなければ、自分が思いついた味や、味の組み合わせを、自分が発明したかのような顔をして発表できるのですが、こうして毎年産地を訪れる度に、自然のすごさを感じ、歴史の長さ、食文化の厚みを感じると、実は自分が発見したと思っていた味の組み合わせだったり発想は、実はこの世の中にすでに存在していたり、誰かが過去に発見したものであることに気がついたりするのです。例えば、カムカムという南米にあるフルーツがあります。このカムカムはスパイシーさと、フルーツの甘味と酸味がとても面白いフルーツ。これを食べる前にカシスとティムットペッパーをマリアージュさせたショコラを自ら思いついていたのですが、まさにカムカムの持つ甘みと酸、スパイシーさの要素をそのまま組み合わせたような味でした。このカムカムを食べた時に僕が発見したことは、実はすでにこの自然界にあるものなのだと驚きました。それは、自分の考えたことが新発見ではなかった落胆よりも、その味がおいしいと人間が感じるのは必然的で、口の中で感じることなんて、「経験」という限られた範囲の中で感じること。改めて、それに自分も気が付けて良かった、と感じたのと同時に、ただただ、自然の奥深さを知りました。これは、ペルーに来なければわかりませんでしたし、今、僕はただ地球上にあるものや歴史上にあったものを再発見しているだけなのかもしれない、そういったことは、もっとほかにもたくさんあるのではないかとさえ思えました。
昔は、カカオは神さまの食べ物でした。南米の産地に赴くことで、このことをリアルに感じ、昔の人達と共感することで交信しているような感覚になり、昔の人が大事にしていた理由がなんとなくわかり、それを自分なりにも大切にしたいと思うようになりました。


 その感覚は日本に帰った時、日本や自分のルーツを深く見つめるきっかけにもなります。そして、それが相乗効果となって今の自分のモノ作りに影響を与えるようになってきたように思えます。
 本当に、終わりなき旅です。カカオハンティングも、モノ作りも、自分の成長も」とコヤマシェフが今年のペルーの旅の感想を小方さん、札谷さんにお話されていました。

 今回も札谷さん、小方さんありがとうございました。
この場をお借りして、お礼申し上げます。
写真家の石丸さん。独立後初のカカオの旅でしたが、来年もよろしくおねがいします。

 最後に、小方さんと小山シェフのやり取りを紹介して、終わります。
カカオハンターの小方さんがご自身が作られたクーベルチュールをもとに小山シェフの作ったボンボンショコラをテイスティングされた時のことです。
「すごい、このボンボン、シャンパンのような香りがする。しかも、このボンボンは私がクーベルチュールを作る過程で失ったと思ったカカオのフルーツ感を、小山シェフのボンボンを作る過程でもう一度呼び戻すことができたのですね。これはもう、マジックですよ。」と小山シェフのボンボンショコラの味に感動されていました。
「技術的にはボンボンは水溶性の仕事なのでそれが可能なのだと思いますが、それだけでなく、小方さんがクーベルチュールにその香りを閉じ込めているからだと思いますし、醗酵させる前のカカオの種も果肉もテイスティングさせていただきました。このカカオを育てた農家のエリザベスさんも、小方さんのおかげで僕は知っています。だから、このカカオの味を呼び戻すことができたのかもしれません。そして、このボンボンをエリザベスと名付けさせていただきました。彼女がいなければこの素晴らしいカカオは存在しないですから。」  今回の旅の途中、こんなやり取りを耳にしました。産地に赴き、カカオ農園で、カカオの果肉や種をテイスティングしている人達だからこそ、このボンボンについて、そこまでの奥行をもって話ができることに、ただただすごいと感じました。小方さんも、札谷さんも、小山シェフも現地に訪れ、現地の空気、水、自然を感じ、生産者の方々と出会うからこそ、カカオのポテンシャルを最大限まで引き出す努力をおしみません。それが、生産者に対する最大のリスペクトなんですよね。
「これは終わりなき旅だね。」とコヤマシェフが言ったのは、自然の力があって、歴史があって、また生産者の方がいて初めて自分たちの創作があるという一つの戒めのようにも聞こえました。

おしまい