シェフと庭師Mの庭造り日記

アシスタントスタッフを
募集しております!

現在、エスコヤマのお庭を担当して下さっている庭師M(松下裕崇さま)のアシスタントスタッフを募集しております!ご興味のある方は下記の連絡先までお問い合わせくださいませ。

090-8520-8640(庭師:松下裕崇)

Vol. 36

終わりなき旅
5 / 7

≪テリーヌ・ドゥ・ショコラ ヘッコンダ≫
 今年はテリーヌ・ドゥ・ショコラ ヘッコンダに、酒かすとアマゾンフルーツのソースを作り、それにつけて食べるのです。
小山シェフ曰く、「これは簡単やし、昨年もやったし、ゆるい感じやろうからオーディエンスの方々の質問を聞きながら進めるわ」と、余裕。
僕はアシスタントとして今年も参加します。今回の仕事はチョコレートを溶かすこと。チョコレートは焦げやすく、120度以上の温度になるとダメらしいです。だから湯せんするのですが、それすら初耳の僕にとっては、チョコレートを溶かすのも大仕事です。この会場にはお湯がないので、電子レンジでチョコレートを溶かすことになったのですが、焦げないか心配で、電子レンジでチンする作業にこれほど緊張したことはありません。

 ペルーの電子レンジなので、説明はスペイン語です。時間設定の数字を入れてスタートボタンを押すという作業にいちいち緊張しました。
うまく溶けるか、レンジにかじりつきながら焦げないように10秒おきに耐熱ガラスのボウルの底を確認しました。
小山シェフのアシスタントとして、真横でコヤマシェフの作業姿を見ることは前回が初めてで、今まで日本でも見たことがありません。当たり前のことかもしれませんが、やはり百戦錬磨のパティシエだけあって、作業姿がとてもきれいで、とてもかっこいい。

 デモンストレーションをするためのキッチンに入ると、まず、小山シェフは作業台をきれいなダスターでしっかり拭き清めます。その姿が始まりの儀式のようで、僕みたいにそこにいることに違和感がある人間には寄り付けない雰囲気になります。その瞬間、小山シェフは職人のスイッチが入るようでした。テーブルを清めたあとは、所定の位置に、道具や材料を並べてゆきます。
「白い砂糖は計量を済ませて、日本から持ってきているよ。この国では生成された白い砂糖はなかなか手に入らないからね」と言いながら、袋から砂糖を取り出していました。その一言は小山シェフの仕事のスタイルを良く表していると思いました。コヤマシェフは準備を怠りません。そこには世界中でデモンストレーションを行ってきて、日本では考えられないトラブルと直面し、それを臨機応変に対応してきた場数と、そこからの反省を必ず次に生かした準備する力を感じました。ペルーに白い砂糖がない理由も、計量して持ってくることの大事さも、小山シェフには準備段階で想定されていて、「僕は心配性だから」と言って笑うコヤマシェフの経験の厚みを感じました。

 デモンストレーションは昨年同様、大盛況で、お客様はヘッコンダに舌鼓を打ちました。


≪7/9 今日はリマから移動して、向かうはPucallpa(プカルパ)≫
 プカルパはペルーのセルバ(ジャングル)の中にある小さな都市。コカセリ川というアマゾンの支流とアマゾン川の本流が混じり合う場所でブラジルとの国境まで車で2時間くらいのところです。
リマから飛行機に乗り、途中アンデスの山岳地帯を通過して、アマゾンに入るのですが、アンデスの山は雪を冠しており、雪山を抜けると、そこにジャングルが広がっているのです。その景色の移り変わりが目の前で起きている事実にいつも頭がついていきません。ただただ、すごい景色の転換です。

 プカルパの空港を降りると、今回のペルーの旅で感じたことのない湿度と熱気が出迎えてくれました。飛行機が少し遅れて、ヒヤッとしました、30分遅れでプカルパの空港へ到着しました。

 ピウラといい、リマといい、砂漠地帯のカラッとした気候なので、この湿度と温度のギャップには大変驚かされました。ジャングルの中の小さな空港に着陸し、飛行機を降りて、歩いて出口のある建物まで歩いてゆきますが、30秒もしないうちに汗がにじんでくるのを感じます。しかしその高い湿度は不快感というより、産地であるという感覚を強く意識させてくれました。
空港ではウカヤリリバーというカカオ生産会社の代表の一人であるデビッドさんが迎えに来てくれていました。

 デビッドさんは流暢な日本語を話されます。彼は仙台に住んでいたらしく、日本語は日本語でも、流暢な東北なまりの日本語を話されます。その彼の日本語はとてもありがたいのですが、彼の東北弁が気になって、なかなか話す内容に集中できません。熱帯の森で聞くペルー人の東北弁は違和感だらけで面白かったです。

 空港近くのホテルに荷物を預けて、すぐに醗酵所に向かいました。この街は車よりもモトバイクの方が圧倒的に多くて、それはこの土地が貧しいからなのか、それとも、モトバイクをピウラで乗った時の経験では車より揺れが少なくて済むという一面もあり、舗装されていない状態ではこのモトバイクの方が便利であったりもする理由なのか、どっちにせよ、まだこの世の中にこのような街が存在することが驚きでした。道路にセンターラインはなく、すれ違う車が怖い。どの産地も道のりはいろんな意味でハードです。

 暫く車で走っていると、どこまでも続くかのごとく油ヤシの畑が続きます。この辺りでは油ヤシの生産が盛んでした。1時間30分くらい走ったところで舗装がなくなりました。そこから更に30分くらいのところにデビッドさんの醗酵所はありました。大きな屋根をかけた下にカカオ豆の醗酵用の箱が並んでいました。今まで見たどの発行所よりもきれいな醗酵所で、醗酵用の箱にも、床には、ほとんど汚れがありません。その横には2階建てぐらいの大きさのビニールハウスがあり、そこで醗酵した後のカカオ豆を乾燥させていましたが、そこもとても衛生的な印象でした。
「毒クモはどこにいる?一度咬まれてきてくれ」と小山シェフ。毒蜘蛛に興味深々。どうもアブラヤシに毒蜘蛛が住んでいると、デビッドさんに教えてもらったのが気になるようです。遠くで不思議な鳥の鳴き声がします。
「オオムですね」とデビッドさんが教えてくださいました。
アブラヤシの林は森林破壊の問題を指摘されますが、
「アブラヤシの森の中でも動物たちは生きていますよ」と付け加えられておりました。

「早速ここでの醗酵について説明しますね。後で農園にも行ってもらいたいので、少し急ぎ気味に説明をします」と醗酵の日数、管理方法などの説明をしていただきました。この農園での特徴は品種ごとに分けるのではなく、カカオが採れた地域ごとに、醗酵、乾燥、出荷するという考え方で、デビッドさん曰く
「この農園で大事にしているのが、トレーサビリティー、つまり生産履歴を追跡できること。我々が採用している方法はとても簡単なもので、フルーツから抜き取ったカカオ豆を農家の方にあらかじめ渡しておいた袋に入れて醗酵場所にもってきてもらっています。その袋には色のついた紐があり、同じ色の袋の豆を同じ木箱にいれ、醗酵させます。箱ごとに地名と日時、量を書いて、札を作ります。あとは一つの箱ごとに乾燥させ、出荷まで、他の箱の豆と混ぜることはありません。そうすることで、その豆に問題があるとわかっても、どの地域のカカオの調子が悪いのか?もしくはどの地域の豆が良くできるのか?と、いうことを調べることができるのです。シンプルなやり方ですが、我々にとってはとても効率的で間違いが少ないやり方なんです」と説明してくれました。