vol.30
「マダガスカルに行くぞ」
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 翌朝、気が張っているせいか、それとも時差のせいか、少し早めに目が覚めました。ホテルの14階の部屋から外を見ると、そこには異国情緒満点の景色が広がっていました。

マダガスカルの景色

「ああ、これがマダガスカルか?」とやっと到着した実感を感じることができました。元々フランスの植民地だったマダガスカルは今でもその名残を町並みに多く残しています。例えば、建築物だったり、石畳だったり、プジョーやルノーのなどのフランス車の多さだったり。しかも、その当時から開発があまり進まなかったせいで、古いまま残っている建物や、古い車が今でも使われているので、タイムスリップした気分を味わえます。町の景色をしばらく眺めていると、ノックの音がきこえてきました。扉を開けるとそこには「よっしゃ、今からランニングに行くぞ」とシェフがマラソンランナーの格好で立っています。カメラマンの石丸さんも普段からランニングをしているらしく、シェフは石丸さんを誘いにきたのですが、せっかくですし、「僕も参加します。」ということで、三人でホテル周辺の早朝散策ランニングをすることになりました。

ランニングの様子

写真でもわかるように、ホテルの前には大きな池があって、その大きな池の周りを走ることにしました。ホテルのロビーを出て、池の周りに行ってみると、さっきホテルから見た景色とはまた違う印象を受けます。池の周りはかなり生活感があります。我々よりも、そこで日常を過ごしている人たちの方がこちらが気になるようで、あんまりじろじろ見たら失礼かな、とこちらが遠慮していても、周りの人たちは容赦なく我々を好奇の目でじろじろ見てきます。アウェー感満載。たくさんに視線を感じながら池の周りを一周。続いて二周目。一周目では見えてこなかったことも、二周目からはもう少し頭の中に景色が入ってきました。池の周りに外国人らしき人たちはいません。よく見ると、寝ている人もいれば、頭の上にものを乗せて運んでいる人もいます。何かを燃やしているひと、タダ座っている人。裸足の子供。乳飲み子をおぶった子供。ゴミの山。排気ガスのにおい。何かが腐った臭い。こちらに来る前にマダガスカルのことを調べた時、この国のことを「最貧国の一つ」と書いている記事をインターネットで読みましたが、池の周りを2周ランニングしただけでその貧しさを十分感じることができました。

頭の上にものを乗せて運んでいる人

 ホテルに戻り朝食です。ビュッフェ形式の朝食。まわりは白人ばかり。先ほど見た景色と壁一枚隔ててここまで世界が違うと朝食にすら不条理を感じます。 朝食を食べながら今日の予定の確認。
9:30に集合して午前中に近くのホテルにあるショコラのお店の見学。 その後、アンタナナリボの市内を少し観光して、空港に向かい、
16:30の飛行機でヌシベというマダガスカル北部の島にわたります。 そちらで一泊して、海を渡ってカカオ農園の町の近くの港に行きます。

小さい島に見えますが、面積でいうと、日本の1.6倍。陸路でカカオ畑まで行けそうですが、道が狭かったり舗装されていなかったりでどうも難しそうです。ややこしいですが、いったんヌシベという島に渡りそこから大陸に戻って、そして車でカカオ農園に向かうのが一番近道だそうです。

 朝食の後、まだ少し時間があったのでコヤマシェフと石丸さんとで散歩に出かけました。先ほど少し通りにくい雰囲気の池の周りの小屋の並ぶ歩道に入りました。さっきより少し人通りが増えて何となくその道を歩いていいような雰囲気がしていましたが、それでも少し、ダウンタウンな感じというますか、スラム的な雰囲気がします。小さく並んだ小屋は思わずホームレスのそれを想像させますが、近づいてみるとなんとその小屋は床屋。

小さく並んだ小屋

外からこそっと中を覗き込むと、暗い部屋に黒い壁に床。黒人が2、3人中にいます。一人が美容師で二人はお客だと思います。狭いし暗いし黒いしで中がよくわかりませんが、カミソリナイフが時折きらっと光ります。その時、「ヤバい」と瞬時に自分の中で警笛がなり、足早にその場を立ち去ろうとすると、 「おい、まっちゃん、次お前カットしてもらえや?」とコヤマシェフがうれしそうにこっちを手招きしています。 幸い、私はこっちに来る前日に丸坊主にしていましたので、「いや、日本できってきたんで。」と足早にその場から立ち去ろうとするのですが、 「せっかくやしラインとか入れてもらえや。」と仕上がった黒人の頭にあるVのラインをさしながら手招きしています。

仕上がった黒人の頭にあるVのライン

「絶対かっこいいから」と半笑いでごり押ししてくるのですが、多分日本人である私があのナイフで髪の毛にVを入れるのはあまりに無謀。ちなみに、マダガスカルは奇跡の島と呼ばれています。その理由は世界の動植物の5%がこの小さい島に生息しているからだそうです。そして、未だに発見されていない動植物の宝庫でもあります。おそらく、すごい珍しい菌とかもいるはず。少なくとも、この床屋の中にも何種類かの新種の菌が出てくるでしょうし、間違いなくあの暗い床屋で手元でも狂った日には必ず、奇病にかかって日本には帰れないようになるでしょう。床屋でのネタの為に人生を棒に振る訳にはいきません。足早にその場を立ち去りましたが、この旅中、ずっとコヤマシェフは「あの時まっちゃんが髪の毛きってたらな?」と悔やんでいました。

 床屋を後にして、池の沿いを歩いていると、子供達が遊んでいます。池に排水を流すためのU字溝を滑り台の代わりにして、子供達が滑りおりています。もちろん滑りおりた先には緑に濁った異臭を放つ池があります。池にはまらない程度に勢いをつけて滑ってゆくのがスリリングで楽しそうな遊びです。子供とは工夫をする生き物で、公園がなくとも滑り台ぐらい簡単に代用品を見つけてしまいます。意外と公園って子供の創造性を奪っているのかもしれません。まあ、今の日本でこんな遊びをしていたら親が許さないでしょう。いや、むしろ柵の無い池を地域は許さないだろうし、日本ではこんな場所には行政により鉄柵&有刺鉄線という感じの完全防備スタイルになっているでしょう。ほんの30年も前なら日本にもこんな所がたくさんあったと思うのですが、安全性を優先するあまり、今は子供から多くの楽しさと創造性を奪っているようにも思えます。そう思えるぐらいこのデンジャラスな遊びをしている子供達は本当に生き生きと楽しそうでした。

小さく並んだ小屋
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更新日12.10.16


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