vol.30
「マダガスカルに行くぞ」
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 さて、次は早めの昼食です。というのも、空港に向かわなければいけません。しかし、その時ジョセさんが携帯電話を片手に、顔をしかめています。
「いやな予感。ヤバい、また、飛行機キャンセルか?」最悪のシナリオが頭をよぎりました。
「えー、みなさん、今マダガスカル国から連絡がありました。飛行機の時間が早くなりました。フライトは12:30分です。急いで空港へ向かわなければなりません。ホテルで荷物を取りにかえって、すぐに空港へ向かいます。」とジョセさんが難しい顔で説明してくれました。
「それは了解。飛行機が飛ばないことに比べると、早くなることぐらい大したことではありません。今日は飛びそうだな。よかった、よかった。」と皆で安堵しておりましたが、冷静に考えると、フライトの時間が早くなります、なんて前代未聞、あり得ない話ですが、それに少し喜んでいる我々もだいぶん感覚が麻痺してきていたと、後から考えれば思うのだが、その時はもう1秒でも早くカカオ農園に行きたかったので、フライトが早くなることに何の疑問も抱きませんでした。

 急いでホテルに戻って荷物を持ってロビーで空港行きのバスを待っていましたが、11時30分になってもバスはきません。フライトは12:30なのに。ここから最低30分は飛行場までかかるので、仕方なく自前の車で我々は空港に向かうことにしました。驚いたことに、旅行者の人たちはちゃんとフライトが早くなったことを知ったようで、一応、ほとんどの人がロビーに集まってバスを待っていたのですが、マダガスカル国はいったいどんな手を使って皆さんに時間を知らせたのでしょうか?

 空港に着くと人がごった返していましたが、新しく開いたチェックインカウンターにタイミングよく一番に並ぶことができました。しかし、マダガスカル人のおばちゃん4人ぐらいが平然と横入りしてきます。しかも、大きな麻で編んだかごを大量に持って。「島から都会に買い出しにでも来た人たちかなあ。」と思って見ていましたが、あまりに我が物顔で横入りするので、少しイラッときて、 「なんであの人達は我々の前に入ってくるのですか?」とジョセさんに尋ねると、「あれは政府の役人達です。あのカゴは明日ヌシベ(我々が向かう島の名前)で行われる高校の入試の試験や重要書類が入っています。あの荷物は我々より優先されます」と教えていただきました。
今までの人生にこれほどまでに見た目と中身が想像をかけ離れていた荷物があったでしょうか?私は正直、そのかごの中には生きた鶏でも入っているのかと想像していました。まさか、国の重要書類だったとは。それを言われてみれば、確かに、ほかの籠よりもすこし頑丈そうだし、なんとなく高価そうです。
それにしても、マダガスカルは心の隙をつくように、我々の常識を壊してくれます。ガイドのジョセさんがいない限り、その籠の中身を知ることは一生無かったでしょう。

 チェックインも無事終え、12:30にはなんとか間に合いました。さて、ぼちぼち飛行機に乗り込もうか、と思うと、また、アナウンスが流れてきました。
そして、ジョセさんが、「飛行機は14:30になりました。」と
この国はなめています。長くフランス人に植民地化されていた腹いせに、外国人を困らせようとしているのではないか、と勘ぐりたくなるほどに。

 「まあ、池で遊んでいた子供達に見習って、どこでも楽しく時間を有効につかわんとな」とコヤマシェフは早々に頭を切り替えて携帯でFacebookに写真をアップしたり、日本からのメールに返信したりしていました。石丸さんも今までとった写真の整理をPCで始めました。

 確かに、これがマダガスカルという国のペースなのです。というよりも、日本みたいにあらゆることが時間通りにきっちり進んでいる国はほかにはありません。世界的にみれば、むしろマダガスカルの方が多数なのかもしれませんね。

 さて、2時間が経ちいよいよ、第二回フライトタイムになりました。が、しかし、例によってアナウンスが流れてきました。そして、アナウンスが終わるや否や、腹を立てた人たちがカウンターに押し寄せています。優しそうな顔をしているガイドのジョセさんもカウンターに駆け寄って行きました。分けもわからないまま私もカウンターに押し寄せる波に入ってみました。 「もしかしたら、またキャンセル?」とジョセさんに尋ねると、
「まだわかりません。おそらく飛ぶと思います。」と。
「飛行機は?」
「まだ来ていません。また遅れているのだと思います。」と
さっきのアナウンスはまたも遅れるとのお知らせだったそうですが、もういい加減にしてくれ、と言わんばかりに空港にいる全員が怒っています。なぜか職員も逆切れしています。そんな光景を目にしたのは始めてでしたが、言葉がわからないせいか、いろいろな国の人がそれぞれの言語でおこっている姿が滑稽に映ります。そして、時間が立つとみんなあきれてだんだんお互いを見合わせて笑い始めるのです。そして、そこに運命共同体の様な感覚が生まれ、何となく仲良くなるのです。

「旅は道ずれ、世は情け。」

「この際、飛行機が飛びさえすれば文句は言いません。頼むから今日中にヌシベに連れて行ってくれ。」そこにいる誰もがそう思っていた時、カウンター近くにいた旅行者が一つのGoodニュースを教えてくれました。

「おとといも飛行機が飛ばなかったそうです。」

つまり、一昨日、昨日が欠航。三本に一本理論が本当だとすると、
「今日は飛ぶぞ!」
究極のポジティブシンキング。
 にわかに信じがたい確率論ですが、それすら信じたくなります。藁にもすがるとはまさにこのこと。

 空港内が騒然となる中、飛行機が空港に着陸しました。しかし、それは今日予約をしていた人用らしく我々はそれには乗れません。昨日の人用はまだ2時間かかるそうです。つまり、この飛行機がノシベに行って、もう一度かえってきた飛行機が我々を迎えにくるのだそうです。つまりこの線の飛行機は一機しかありません。結局おおよそ6時間、ただひたすら空港で飛行機を待っていました。にもかかわらず、ヌシベに着いたころには疲れ果てていました。飛行機を降り、用意してくれた車に乗って、真っ暗な中で車を走らせて行きます。暗くてもそこに自然がたくさんあることがわかりました。植物を見ると何となく、嬉しくなり、またほっとします。この数日、首都アンタナナリボにいましたが、あの町には自然がありません。それがなんとなくストレスだったことが、緑に囲まれた時に気が付きました。
そして、緑を見るとテンションがあがる人がこのチームにはもう一人います。コヤマシェフです。
暗い窓の外にうっすらと見える木々を見て、
「まっちゃん、でっかい木があったぞ。なんかええ感じやな。明日の朝が楽しみや。朝5時には起きて散歩しようか。絶対虫おるで。」と暗闇に目をこらして車の外を見つめていました。
ヌシベのホテルについたのは夜の9時半頃。
いくら暗くても、このホテルはテンションがあがります。人生初のリゾート。しかもビーチサイドリゾートです。カウンターでマンゴーのフレッシュジュースを出してくれたのですが、それがうまい。疲れたからだにしみ込んでゆくようです。後日「シェフあのマンゴージュース美味かったですね。」とシェフと話をしていたら、
「まっちゃん、あれは、マンゴーじゃない。パパイヤや。」と真顔で突っ込まれました。どうあれ美味しかったです。
ホテルのビーチからは星空は南十字星が偽物の様にはっきり見えます。プラネタリウムより星が多い夜空。嘘みたいに頻繁に流れ星が流れます。引き潮なのでしょうか。遠くの方から波の音が聞こえてきます。しかし、無念。出来れば明るいうちにつきたかった。せめてもう一泊ここで出来れば。皆そう願いたくなるような居心地のいいホテルです。

 部屋に通されると、とてもきれいでおしゃれな部屋を用意していてくれていました。ベッドやバスルームには花びらが散らされています。マラリアの心配があるので、寝るときはベッドを蚊帳で包むのだが、その蚊帳も真っ白のレース。しかし、そこで寝るのが、私と写真家の石丸さんの男二人。花びらを散らしたツインベットを一つの白いレースの蚊帳が優しく包む。男二人では盛り上がるどころか、どうにもテンションの下がる状況。いや、むしろ誤解されかねない状況です。というか、ホテルのスタッフの人たちは我々の二人のことを間違いなくゲイだと誤解していたでしょう。

 部屋に荷物を置き、遅めのディナー。ディナーの場所はまさにビーチサイド。ここの食事はイタリアンなのですが、オーナーがイタリア人だそうです。とにかく、ヌシベまで来れたということがうれしい。それを祝って皆で乾杯。頭の片隅では、帰りの飛行機が飛ぶかどうか心配でしたが、今はそれを忘れよう。とにかく、また一歩カカオ畑に近づきました。明日はこちらを7:30には出発。港まで行き、そこから船に乗って本島にもどります。目指すはアンバンジャという町。予定通りに行けば明日の午前中にはカカオ農園につけるはずです。

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更新日12.10.16


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