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Vol.8

ものづくりが始まる場所から

AM6:00 厨房に明かりが灯され、オーブンに火が入り、いつものエスコヤマの朝が始まる。厨房では毎日毎日、たくさんのお菓子が焼き上げられ、箱に詰められ、お客様の元へと届けられていく。しかし本当の意味でのお菓子づくりは、ここから始まっているわけではない。あまりにも当然のことだが、材料がなければお菓子はつくれないのだ。

大地に実った小麦や色とりどりのフルーツ、鶏たちが生んだ卵に、牧場の牛がくれる恵み・ミルク、バター、チーズ。地球の裏側のジャングルでは、カカオやバニラが育まれている。そして、太陽はこれらの地上の生きとし生ける全てのものたちを育むために、いつどんな時も無償の光を降り注いでくれている。

そんな無数の材料との出会いから、私はいつもインスピレーションを受け、これまでたくさんのお菓子を創り出してきた。だからこそ、無限の恩恵を与え続けてくれる太陽に、そして日々、精魂込めてこれらの材料をつくってくださる生産者の方々に私は心から感謝の気持ちを抱かずにはいられない。

お菓子を通して、生産者の顔が見えているだろうか?その想いは、お客様にきちんと届いているだろうか?私は、いつもそんなことを頭の片隅で考えながら、お菓子をつくっている。産地の方々は消費者に直接アプローチすることはできないから、私が彼らの代弁者として、その材料に秘められた魅力を、物語を、お菓子を通して語ってゆくべきだと考えている。

ところで今から30年前、私がパティシエになったばかりの頃は、日本にはまだ外国産のフルーツや材料が少なかった。「フランボワーズって何?」「カシスとはどう違うの?」そんな会話がパティシエ同士の間でも交わされていたと言ったら、きっとみなさんも驚かれるだろう。それが、最近では地元・三田をはじめ、丹波篠山、京丹後、瀬戸内などの近隣エリアにこれまでは輸入でしか手に入らなかったフルーツや野菜を栽培されている農家さんが増え、私たちパティシエにとってはかなりエキサイティングな世の中になってきた。


例えば、これまで輸入レモンを当たり前のようにお菓子づくりに用いていた私だが、“青いレモンの島”と呼ばれる瀬戸内の小さな島・岩城島の「木なり完熟イエローレモン」と出会ったことで、従来品の「ウィークエンド シトロン」をリニューアルするきっかけが生まれた。一般的にレモンといえば、皮も硬くて、酸味が強くて……というイメージしか持たない方がほとんどだろう。ところが、木に生ったまま1〜2月ごろまで完熟させたレモンは、爽やかなシトラスの香りが通常よりかなりチャージされて、力強くなる。果汁もたっぷりとみずみずしく、酸味がまろやかなので、皮ごとかじることだってできる。私は初めて「レモンが美味しい」という感覚を、この岩城島のレモンで体験させていただいた。ウィークエンド シトロンにこの岩城島のレモンを使うことで、よりいっそう、レモンの香りと爽やかな酸味を感じていただけるケイクになったと思う。

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