21.10.14 (1/5ページ)
Vol.17

美味しい連鎖を生み出すために

時代が生み出すもの

今、世界中でSDGsが叫ばれている。 僕自身も何度かこのテーマに触れてきた。 そして今回もこれについて触れなければならない。 そこには大きな理由がある。僕にとっての身近な素材である「チョコレート」に、その大きな波が押し寄せているからである。


2019年に訪問したサンフランシスコが今回の話の始まり。 そこは、新素材の発表の場だった。そこで聞かされたのは全く新しい考え方の下で、最先端の技術を使って生み出された新しいチョコレートについてだった。 そのイベントには僕を含め全世界から集められた30名のシェフが参加した。新素材を託された僕は、世界に向けて、日本でモノづくりをする人間として、自国の食文化に基づく視点からこの新しい素材の可能性を発表しなくてはならない使命を背負うことになった。


その新素材の名前は「ホールフルーツチョコレート(whole fruits chocolate)」。 つまり、「カカオフルーツの全部を使って創り出されたチョコレート」ということになるが、全部とは、カカオ豆、カカオの果肉、果汁、外皮(ハスク)、外殻(カボス)など全てである。 通常のチョコレートは、元々カカオフルーツ全体の30%(カカオマス=カカオ豆のみ)からできている。 残りの70%は今まで捨てられていたが、それを混ぜてしまおう、というのである。 そして、カカオ豆をチョコレートに加工する工程で加えられていた、砂糖などは一切加えられていない。 それにより糖質は40%カットでき、食物繊維が豊富で栄養価も高いというメリットも生まれた。


捨てるものに価値を付け、ごみの削減や売買できるものにすることで生産者さんたちの収入増にも繋がるという、SDGsの視点で見れば理想的な素材、ということである。


この「ホールフルーツ~」の誕生の背景には、SDGsの考え方が非常に大きな影響を与えている。 また、世界のどこにどんなカカオ産地があるのか、そのカカオでつくられたチョコレートはどんな味なのか、ということがかなり明らかになってきたため、珍しい名前のカカオ産地が注目されることもなくなってきた。

また、チョコレートに関わりたいという、あらゆる立場の方々が市場に参入し、カカオの可能性がここ10年ほどですごく広がったように思う。 一方でBean to Barブームも落ち着き、今は市場全体が目の前のカカオの真の価値や可能性に、より向き合う気風が生まれてきたのかなと感じている。

世界初の新素材とのセッション

そういったなかで、エスコヤマではホールフルーツチョコレートを使った2種類の新しいお菓子が登場する。 「ホールフルーツチョコレートケーキ」と「ホールフルーツチョコレートのザッハトルテ」だ。

はじめからこれにしようと決めていたわけではないが、ある意味、このホールフルーツチョコレートが導いてくれたと言える。 試作スタートの時点で、ある程度レシピに目途をつけて試作にとりかかったところ、思いもよらぬ流れになった。 良くも悪くも「これ、簡単には済まないぞ」ということだ。


決して簡単に捉えてはいなかったし、サンフランシスコで食べさせていただいたとき、「口どけがねっとりしているような感じが、カカオポッド由来の繊維質なのかな」とは考えていた。 それでも、色々と試作をする度に特徴が見えてきて、あるとき「あぁ、これは使えるな」と思った瞬間があった。


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