Human ~coexist with nature~
人、それは自然とともに。
先人たちの軌跡の上に
今から140年ほど前の1875年、スイスのチョコレート職人ダニエル・ペーターが世界で初めてミルクチョコレートの製造に成功した。当時のチョコレートはカカオの苦味ばかりが際立つもので、その味わいをまろやかに洗練させる工夫がいろいろと行われてきたが、どれもうまくは行かなかった。それというのも、チョコレートは油分が多いため、水分の多いミルクやクリームを加えるとボソボソとした分離状態になってしまうからだ。そこでペーターが目をつけたのが、当時、同じくスイスのアンリ・ネスレが製造していた練乳だった。ミルクから一定の水分を飛ばした状態の濃厚な練乳なら、カカオともなめらかに融合することができる。その特性を生かし、ペーターはミルクチョコレートバーとミルクココア(粉末)の2つの製品を生み出し、世に送り出した。
私たちが今、楽しんでいるチョコレートは、そうした先人たちから受け継がれた数多くのレガシー=遺産の結晶だ。彼らの偉業なしには、今のチョコレートは存在しない。最近私は、彼らがどんな想いで、どんなきっかけでそのイノベーティブなアイデアを思いつき、試行錯誤を重ね、実現したのか。そんなことに想いを馳せながらチョコレートを創るようになった。今回、私がSDCパリ(サロン・デュ・ショコラ パリ)に向けて、ミルクチョコレートを主体にしたコレクションを発表したことも、そんな彼らの軌跡の延長線上にあるものだと感じている。
180の点を線に繋ぐ
今回の創作をスタートしたのは昨年の5月から。毎年のことだが、10月終盤のSDCで行われるC.C.C.(クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ)コンクールへの出品がこの時期で、その年の出品が終わると、またすぐに次の新しい1年が始まるという流れは変わらない。そのあとは次のバレンタインが終了するまでの間、日々の生活の中から得たアイデアのモチーフを私のネタ帳であるiPhoneのリマインダー・アプリの中にどんどん蓄積していく。その結果、16年のバレンタインが終わる頃には、リマインダーの中に180項目ものアイデアが並んでいた。それらを精査して絞り込み、試作を重ねて、点から線へ、線から3Dへと造形を進めていく。最終的にはその中から65の作品を作成し、そこからさらにC.C.C.に出品する4作品へと凝縮する作業を行っていくのだ。