21.10.14 (3/5ページ)
Vol.17

美味しい連鎖を生み出すために

こうして様々な試作を通してこの新素材のことを、身をもって理解していったわけだが、ホールフルーツチョコレートは、いくら「チョコレート」という馴染みのある名前の材料であっても、今まで使っていたチョコレートの一部をそれに置き換えて、という単純な変換では成り立たないような新しい素材。


前述したが、カカオフルーツ1個全体を100%としたら、今までのチョコレートはその30%分。 ホールフルーツは残りの70%も加わったものなので、それを考えるだけでも今までのチョコレートとは全く違うもの、というのが伝わるだろうか。


つまり、今の状況は、チョコレートと初めて出会った先人が、これをお菓子づくりに生かすにはどうしたらいいかを一生懸命考えていた時代と同じような状況、ということになる。 使い方の分からない未知の素材との遭遇である。


ただ、今回分からないところからスタートしたが、カカオポッドの繊維を入れることによってしか生まれない質感や食感があるということに気づくことができた。まだ試作はしていないが、もしかしたらバウムクーヘンには向いているかもしれない。

食物繊維がいい働きをして生地がしっとりとしていい感じになるのではないか、という気がしている。


ホールフルーツチョコレートとどれだけ真剣に向き合ったかが伝わっただろうか。 その一方で「開発者がどう使ったらいいかわからない素材って、そんなことあるのか?」と疑問が浮かんだかもしれない。


メーカーさんにも契約されているシェフがおられて、自社商品を使ってたくさんのメニュー開発をされているのが一般的だが、今回のホールフルーツ~はそういったことを飛び越えて、世界中に声をかけたのである。 背景には、業界を引っ張っていかなければいけないという責任や、もっと考えを同じにする競合他社が現れて業界全体の取り組みにしていきたい、という声かけの側面もあるのかもしれない。


僕に素晴らしい素材を提供してくださる生産者の皆さんは、上記でいう「私がやりました」と判を押し続けてこられた方々だ。 その努力に敬意と、改めて感謝を申し上げたい。 皆さんの力強いモノづくりが僕の作品に力を与えてくれる。 だから、お客様に伝わるものになる。 僕は消費者の皆さんに届ける側であるが、生産者の皆さんからは受け取る側の立場。 受け取る側の責任を果たすために、妥協せず、モノづくりに全力で取り組んでいる。


また、細かい部分では国の違いで味の感じ方も用途も違うので、求める味が違うという点である。 サンフランシスコのイベントの場で、各国のシェフがステージで感想や印象についてコメントをする時間があったが、実際にフランス人は「このままでは酸味が強すぎるから、弱めてほしい」というリクエストを出していた。


そういった意見をしっかり聞いて開発に活かすことが、世界を巻き込むうえでは必要不可欠だと考えたのだろう。 しかし、実はこの後に述べる理由のほうが的を射ているかもしれない。 それは、「カカオポッドを捨てずに使うことでごみを減らせるし、カカオ生産者の皆さんの収入も増加する」という理由である。

TOP