17.02.03 (2/3ページ)
Vol.3

「モノづくり」 に大切なコト ~MONSTER CACAO~

続いて、①の「素材を探し出し、常に新しい素材(カカオ)を手に入れる能力」

②の能力にも繋がるが、素材自体もやはり「面白い!」と自分が感じるものが欲しくなるし、使ってみたくなる。それが、たとえ手に入れ難いものであっても、生産者さんと真剣に向き合って誠意を尽くす。本当に使いたいと思っているのなら当然の行動だ。

例えば、エスコヤマの近隣の農園で栽培されている有機野菜。突然、「使わせていただきたい」とお願いをしに行っても簡単には買わせていただけない。その農園さんは本当に土作りから丁寧に取り組まれていると知っていたので、採れたての人参を土が付いた状態で、土ごといただく。そして農家さんの顔を見る。「美味しい!」と伝える。すると、相手の表情がほころぶ。これが、僕が普段から心がけていることだ。創り手として、「何を大切にされているか」を感じる能力も大切。自分もモノづくり人として、自分が生み出した作品を自分以上に大事にしてくださっていることを知ったら、とてもうれしくなる。だから、自分も同じように大切にする。

加えて、せっかく大事にしたいと思っていても、イメージと違うものが届いたら、愛情を込めて、勇気を持って、ダメなものはダメとハッキリ伝える。でなければ、本当に良い物を手に入れることはできない。素材のポテンシャルを信じ、生産者の方々と「良くしたい」という同じ思いのベクトルで、真剣に向き合い共に創り上げるからこそ、生産者の方も「良いものをつくらなくてはいけない」と、真剣になってくださる。

まずは、自分が生産者の方々から「この人に届けたい」と思ってもらえるような人間でいなければならない。そういう信頼関係を築いていく過程も、最終的には「伝えたいこと」の一部になっていく。全て、「なぜ、それが良い物と言われるのか」という理由に繋がる。

カカオ(チョコレート)もそう。カカオハンターの小方さんも、フランスのショコラティエ、フランク・モラン氏も、まずはカカオを栽培してくださっている農家さんを大切にされている。一緒になってカカオ栽培に取り組む。小方さんに関しては、拠点を現地に移してまで、首尾一貫して取り組まれている。そういった活動を知っているから、「皆さんが大切に育てられたカカオから生まれた、この美味しいチョコレートを、もっとたくさんの人たちに届けたい」という気持ちが勝手に湧いてくる。それが僕の創作の原動力の一部になっている。

つまりは、「素材を手に入れる能力とは、信頼関係を築ける人間になる能力のことであり、「新しい素材」は、素材そのもののポテンシャルをどれだけ信じられるか、また、最高のポテンシャルを秘めた素材を生み出してくださる方々といかに正面から真剣に向き合い共に創り上げていけるかで、勝手に引き寄せられてくる、と言い換えることもできる。「この人にこれを見せても・・・・・・」と思われていたら、絶対に良い素材は手に入れることはできない。

三つめは、「①②の能力を使ってアイデアを具現化し、新しいものを生み出し、それを伝える能力」。今まで話した全ては、ここに繋がっている。

「面白い!」というアイデアと熱意が、面白い素材を引き寄せ、面白い作品ができる。その中で、軽視できないのが具現化するための技術力。そもそも、モノづくりにおいて、日常生活における技術の研鑽は、「やって当たり前」。技術がなければ何も生み出せない。だからといって勘違いはしないでいただきたい。講演会でもよく質問をいただくのが、「小さい頃からお菓子をつくってらっしゃったのですか?」ということ。答えは、「ノー」。本格的にケーキ作りに取り組んだのは、18、19歳の頃、専門学校に入学してからだ。ちなみに、初めてお菓子を作ったのは、小学生の時。何を作ったかというと、家にあった「ハウスプリン」。パッケージ裏に書かれたレシピを見て、中に入った素(粉)と牛乳などを使って自分でプリンを作れるシロモノだ。僕は元来、「実験好き」。はじめはレシピ通りにプリンの素(粉)と、牛乳、水を混ぜて作ってみるが、次はレシピ通りにはやらず、牛乳:水が1:1の場合、4:6の場合、2:8の場合といろいろ試してみる。その結果、水のほうが牛乳より多いときのほうが、プリンの味が濃くなるということが分かった。また、冷たくも感じることが分かった。そんなことを繰り返したら、こんな大人になった。作っていた物といえばもう一つ。チャーハン。母が作るチャーハンより美味しいものを作ってやろう、とハムを増やしたり、いろいろと工夫してみたこともあった。でもそれぐらいだ。

物事に対する興味の持ち方は、子どもの頃からなんら変わっていない。気になることがあれば、すぐに理由を尋ね、「なぜか?」を知ろうとする。虫捕り名人だった母の影響もあるかもしれない。

母が「虫捕りに行こう」といった日には、たくさんの虫が捕れる。しかし、母から何も誘われない日に一人で行ってみると、全然捕れない。そこで当然疑問が浮かぶ「なぜ?」何度も行く間も常に考え続ける「どうして?どうして?」すると、あるときからいろいろなことに気が付いた。「夕立の後には絶対に捕れない」それは、森の中の樹液の香りが流れてしまうから。「湿気の多い日は、樹液の香りが森中に広がるので、たくさんの昆虫が寄ってくる」だから、たくさん捕れる。今思えば、これもある意味実験の一つで、何度も行ったり来たりして、「なんで?なんで?」とアンテナを張り巡らせることで、気付く力を自然に養っていたのだろう。何度も実験することは、たくさん失敗をすることでもある。その癖があれば、失敗の中で、きっと勝手に技術は磨かれていく。

余談だが、条件が揃った日でも捕れないときが出てくる。それは、採取した昆虫を販売する業者さんが来ていたからだった。プロも同じ日を選んでいたということになる。恐るべし、子どもの頃の自分。

子どもの頃の話をもう一つ。僕は根っからの伝えたがりの少年だった。自分の身の回りで起きた様々なニュースを、とにかく身近な人に発信する。母がパートに出かけ、家に誰もいなくても、近所のおっちゃん、おばちゃんに「今日はこんなことがあってね」と話しかけていた。だから僕のことを周りの大人はみんな知っていたし、時には、自分がまだ言っていないことも「ススムちゃん、書道で賞獲ったみたいやな、すごいな」と話しかけてくれたりもした。残念ながら、今の時代はそうはいかない。基本的に、みんながみんな忙しい。「余計なことを言ったら、この子の親から何を言われるかわからない」とまで考えてしまう。親ですら、「忙しいから」と子どもの話に耳を傾けようとしない。そういう環境で育った子たちが毎年エスコヤマにも入社してきてくれるが、その子たちから感じることは、伝える力が弱い、ということだ。だから僕はエスコヤマに「未来製作所」を創った。大人は入れない、小学校6年生以下のお子様しか入れないあの空間が、大人と子どもを繋ぎ、子どもたちには伝える力を、大人たちには聞く姿勢を、身に着けていただく一助になれば、と思いを込めた。ケーキ屋として、将来日本を背負って立つ子どもたちのためにできることは何かを真剣に考えた結果の一つの形である。

若い子達と一緒に働くプロフェッショナルたちも同じことをきっと感じていると思う。若い子達と真剣に向き合うが故に僕たちプロがぶち当たる壁でもある。世の中の数多のプロが、この空間の存在を知って、「自分だったら」と想像を膨らませ、生み出されるものがどんな形あれ、何かのキッカケにしていただきたいとも思う。

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