17.09.29 (3/3ページ)
Vol.5

宝物の発見。〜おいしいものは、裏にある〜

実際、エスコヤマにも季節ごとに紹介しきれないほどの裏スイーツが存在している。 フランクフルタークランツ、プラランルージュ、ガレットブルトンヌ、カヌレetc… 創り手としては、そうしたメニューこそ、ぜひみなさんに知っていただきたいと切に願うものだ。 なぜなら、そうした商品には必ず、面白い“裏話”が潜んでいるからだ。

例えばカヌレに関しては、フランスのパティシエ、フィリップ・コンティチーニ氏は、光栄なことにうちのカヌレのファンだと言ってくださっている。彼によると、これまではピエール・エルメ氏のカヌレが一番好きで、それを超える味を作ろうと、何度もエルメのカヌレを食しておられたらしい。それがある時、来日した際にうちのカヌレを試食してくださって、「エスコヤマのカヌレが私の中での一番になった」と言ってくださったのだ。さらに、「最初はエルメのカヌレをモデルに試作をしたのではないですか?食べてみると、それがよくわかります」とも。さすがはフィリップ氏、私のルセットのルーツまで見抜いていたのだ。

またさらに、「君のクロワッサンは世界で一番おいしいと思う。これを食べる限り、私はまだクロワッサンを自分の店で出すべきではないですね。もうレシピが完成しかけていたのですが、この味に出会ってしまったからには、もっと研究を重ねなければいけない」という言葉までいただき、たいへん恐縮した。

一流の職人というものは、自分が作るからには絶対一番にならないと許されない、というプライドがある。 また、それだけ自信のある商品が存在するからこそ、お客様がその店に行く理由になるのだ。

ある時、マスコミのインタビューで「小山さんはすべての商品に一つの目標となる理想を掲げて、商品づくりをされているんですか?」と聞かれたことがある。ある意味、答えはYes,だ。なぜなら、その時々に存在する一番の商品を超えたい!ということが、私が商品を作る大きな動機であり、また世の中に発表する基準であるからだ。例えば、ガレットブルトンヌは福岡の「16区」さんだったり、カヌレとクイニーアマンはピエール・エルメ氏だったり、私が食して、その時一番おいしいなと感動したものを、最初の目標にする。まずは、その味を再現することからスタートするのだ。思うに、パティシエも若い時代にどれだけ自分の目標に近づき、それを越えようとする訓練をするかで、力の差がつくのではないかと思う。私も若いころから、常にそういう気持ちでものづくりに取り組んできたことの結果が、主力商品はもちろん、数多くの裏メニューの集合体を生む結果へと繋がっていったのだ。

お客様にも、みなさんそれぞれの「My BEST 10」があると思う。

エスコヤマでは毎月数十種類もの新商品が誕生していて、それが14年間も続いているのだから、もはやそのラインナップは膨大だ。その中から、たとえ人気のあるお菓子でなくとも“私だけのお気に入り”を発見しては、こっそりお友達やご家族に教えてあげたい、おいしいと喜んでもらいたい…そんな小さなお楽しみを持っている方は多いはずだ。

“発見”というと、ノーベル賞のような世紀の発見を思い浮かべる人が多いかもしれないが、いつも見慣れた風景の中で見落としていた“小さな発見”もある。また、時間がたってしまって忘れてしまったものを、何かのきっかけで“再発見”することもある。新しく世に見出されたものだけが発見と呼ばれるわけではないのだ。

小山ロールもまた同じで、世の中にいろいろなロールケーキがある中で、なぜこのシンプルな小山ロールがたくさんのお客様に愛されているのか。あえてそういう視点でお菓子を見つめ直してみると、私自身にもたくさんの発見があるし、お客様も同様なのだと思う。

エスコヤマのギフトは、実はこのカタログの中だけにあるものではない。カタログの外側にある私の好きなお菓子・ベスト10をぜひこの冬、お客様ご自身の目と舌で再発見していただきたいと思う。そして、それを大切な誰かに贈ってさしあげることもまた、小さな喜びとなるのではないだろうか。

パティシエエスコヤマ 小山 進

PREV 1 2 3
TOP