18.11.22 (3/3ページ)
Vol.10

儚くも美しき、この世に生まれた奇跡。

異例のコンストラクションとリフレインの遊び

今回のチョコロジー2018の構成で一番特徴的なことは、通常は3番目にくるプラリネを2番目に持ってきたということだ。これは私にとって冒険とも言える選択だが、極上のピエモンテ産ヘーゼルナッツを超える力を持つ赤紫蘇があったからこそ、挑むことができたと言える。全体の流れとしては、野菊のエレガントで静かなイントロから始まり、2番目のプラリネという意外性のある展開、そして3番にサビの主旋律とも言えるカシスの蕾で盛り上がり、最後はスモーキーなオアハカで重厚なエンディングを迎える〜そんな4部作のシンフォニーのような構成になった。そしてさらに、4番目を味わった後、再び1番〜3番へと順に戻っていくと、オアハカの辛さの刺激の余韻の中にそれぞれのファースト・ノートが重なり、絶妙なマリアージュを展開し始める。そんな“リフレインの遊び”が加わることで、より深く4つの個性を楽しんでいただけることも発見した。今回の作品は、私自身の美学として、完璧なものが仕上がったと満足している。

セレンディピティ〜奇跡の出会いに導かれた、幸福な発見の連鎖

5日間しか咲かない花の3日目の香り、カシスの新芽だけが持つエネルギッシュな香り、和歌山の自然に育まれた特別な赤紫蘇の清涼な香り、メキシコの風土から生まれた唐辛子の濃厚な燻製香。そんな4つの自然が育んだ夢のように儚い香りを、いかにしてチョコレートの中に閉じ込めるか。いかにして目に見えない花や自然の風景をまるでムービーのように浮かび上がらせることができるか。それが私が目指した今回のゴールだ。一つ一つのチョコレートは、自然が創り上げた美しい意図を、私なりの解釈で形にしたものに過ぎない。しかし、その表現は決して簡単なことではなく、多くの時間と試行錯誤を必要とした。その結果として、私自身には新しい素材の魅力や、それを生かす技術の発見、そして何よりもこの挑戦に対して面白がり、エキサイティングする自分の気持ちの高まりという贈り物を受け取ることができた。


自然と向き合うこの試行錯誤に、答えがあるわけではない。自分で探し求め、自分で着地点を発見し、自分で納得するしかないのだ。儚いからこそ、美しい。 そんな日本人の美学を一箱に詰め込んだのが、2018年のチョコロジーだ。素晴らしい素材との奇跡の出会いをもたらしてくれた多くの方々に、そしてこの素晴らしくも美しい世界に、ただただ、感謝あるのみ。これからも、様々な目的を探求する中で出会うであろう多くのセレンディピティ 〜偶然から導かれる幸福の連鎖〜 が、私を新しい創作へと導いてくれることだろう。


パティシエ エス コヤマ
小山 進

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