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Vol.9

エスコヤマ・ペディア 2018 ~あなたのまだ知らない、エスコヤマ雑学~

15年目のエスコヤマ。その進化は、作り手とともに。 三田・ゆりのき台の丘にエスコヤマが誕生してから早くも15年の時が流れようとしている。 その中で生まれた多くのお菓子には一つ一つ、特別な物語が込められている。 最近、エス コヤマに出会ったばかりとおっしゃるお客様はもちろん、長らく愛していただいているお客様でさえ意外にご存知ない"エスコヤマ雑学"を、改めてお伝えしたいと思う。

es koyama-pedia 01 最近の小山ロールのこと

2018年現在の小山ロールが これまでで一番完成度が高い。


私が子どもの頃、「スイスロール」という名前で茶色い焼き面が表になったロールケーキがよく売られていた。 ところが、食べようとして包装フイルムを剥がすと、その茶色い焼き面はフイルムにくっついて剥がれてしまう。 フイルムについた生地をこそいで食べるのは子どもの私にとって楽しみではあったが、「これって、めくれないようにできないの?」と、ちょっと残念な気持ちになった。
時は流れて、ロールケーキからその焼き面が消えた時代があった。 多くのロールケーキは剥がれてしまいやすい焼き面を内側にして巻かれるようになった。 そこで私は「昔ながらのおいしそうな焼き面を表にしたロールケーキを創りたい」とレシピを考案。 ふんわりとした生地感とともに、フイルムを巻いても焼き面が剥がれにくいものを目指した。 そのため、焼き面が剥がれやすくなる卵黄が多い配合ではなく、"別立て"(卵黄を加えた生地と卵白を別々に泡立て、最後に一つに混ぜ合わせる方法)のレシピを採用。 焼きあがった生地が冷めたら30分以内に巻く手法で、"茶色い焼き面が表で、剥がれないロールケーキ"を完成させた。 それがエスコヤマの看板商品「小山ロール」だ。 15年前の開業当初より変わらぬレシピで毎日焼き続けているが、実際のところ小山ロールは日々進化し続けている。 そのことにうすうす気づいてくださっているお客様もいらっしゃると思うが、私自身の感触で言うと2018年現在が、これまでで一番いい状態に仕上がっている。 レシピが変わっていないのに、なぜ進化しているのか?不思議に思われるだろうが、そこには様々な理由がある。


まずはオーブンなどメカニックの進化があげられる。 小山ロールの生地はきめ細かなミストが充満したオーブンの中で保湿しながらゆっくり、ゆっくり焼き上げられる。 そうした庫内の水蒸気や温度をコントロールするオーブン機能や密閉性などがこの10年の間に大きな進化を遂げたことも小山ロールを進化させた要因の一つだ。
もちろん、機能性の高いオーブンがあるからといっておいしいお菓子が作れるわけではない。一番大切なのは、それを扱う人間の理解度や習熟度だ。この色の違いはどこから生まれる?」「生地が浮かなかったのは何が原因?」「夏に卵白がもっと力強い卵はないのか?」毎日の仕事の中で疑問とその検証を行い、そのデータを代々のスタッフ間で受け継いできたからこそ、今が最高の状態にあると言えるのだ。


さらに、焼きあがった生地は冷めてから30分以内に巻き上げないと生地の表面が割れてしまうため、スピーディーなオペレーションが必要となる。厨房では生地にクリームを塗って巻く人、切る人の2人1組でペアを組んで作業を行うのだが、そのコンビネーションがうまくいかないと美しいロールに仕上げることができない上、作業に時間がかかってお客様をお待たせすることになってしまう。 こうした巻き上げオペレーションの構築にも多くのエネルギーを費やした。

小山ロールは生地とクリーム、栗だけの非常にシンプルな商品ではあるが、それだけにここまで来るのに15年かかったとも言える。 開発当時は、もちろんその時の最高レベルのものを作っていたつもりだった。 それが、作り続ける中で様々な課題に直面し、それを改善し続けることによって私自身も小山ロールという商品の輪郭がよりはっきりと見えてきたのだと思う。


これまでで一番悔しかったのは、私がサロン・デュ・ショコラ・パリなどに出店するようになった頃、「ロールケーキ屋さんがショコラに挑戦」というような表現をメディアなどで見かけたことだ。確かにショコラ創りのモチーフは非常にマニアックだが、我々がつくる「小山ロール」という商品も材料の選定からレシピ、焼き方、巻き方… そのプロセスは負けず劣らずマニアックだ。 そのことをお客様やメディアにきちんと伝えておきたいという想いから、今回、15年の節目に改めて小山ロールのことを取り上げてみた。


es koyama-pedia 02 小山ロールのパッケージのこと

二代目パッケージはギフトになるために生まれた。


2010年10月に小山ロールのパッケージを一新したが、それにも理由がある。 誕生時、小山ロールは手頃な価格の"日常使いの生ケーキ"というポジションで販売を開始したが、実際の売れ方を見ていると手土産として買われる方、"おいしいから人にもプレゼントしたい"と何本も買われる方が多く、意外にもギフト需要があることがわかった。 "小山ロールがギフトになる"ということは想像もしていなかったことで、それなら、とお客様がギフトとして使っていただくのにふさわしいパッケージへのリニューアルに踏み切った。 なんと言っても小山ロールはエスコヤマの主力商品。 ギフトにふさわしい上質なテクスチャーやデザインはもちろんのこと、お客様の行列を考えて箱折り時間を極力短縮するシンプルな構造も必要だ。 パッケージのデザインは50案もの中から絞り込み、パッケージをなぜリニューアルしたかについての解説リーフレットも作成した。 しかしながら、実際はパッケージを変えた直後は少し売り上げが落ちた時期があった。しばらくするとそれは回復したが、やはりお客様は慣れ親しんだパッケージに愛着を持ってくださっていたのだと感じた。 今、アイデアとして練っているのは、近々、初代パッケージの復刻版を作りたいということだ。 私自身、そのパッケージを懐かしく思うのと同時に、初代を使うことによって、今の二代目の良さも改めてわかっていただけると思うからだ。

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