19.4.25 (3/3ページ)
Vol.11

15年目のグランド・デザイン
エスコヤマが今だからできる、これから目指したい、
こんなこと、あんなこと。

object 08
Location 三田の魅力

この地から得た多くの恵みとともに、 次のステージへ。


エスコヤマが三田の街に生まれて今年で15年目になるが、去る2018年はこれまでになくいろいろな出来事があった。 その中でも鮮明に記憶に残っているのが大阪府北部地震と相次いで2度も近畿地方を襲った大型台風だ。 たくさんのエスコヤマのお客様が被害にあわれたことを悼むとともに、いまだ復興の途上にある方々にはその一日も早い回復を心よりお祈り申し上げている。


エスコヤマにおいても、私たち人間にはコントロールの効かない天災の前には、15年かけて育ててきた店がこれほど大きな影響を受けるとは私自身思ってもみなかった。 幸い、いずれの災害でもエスコヤマと三田の街には大きな被害はなかったが、甚大な被害のあった京阪神地域にお客様を持つ私たちにとって、昨年後半はともに辛い時期を過ごすこととなった。 自然に囲まれ、広々とした空間でパティスリーを展開したいと決めた三田というロケーションにも、郊外型店舗ならではの弱点があることに初めて気づかされた。 都市の機能が麻痺することで、そこに住むお客様自身の行動のモチベーションも大きく下がってしまったのだ。 エスコヤマへのメインルートである北神戸線が開通して車の流れがスムーズになってからは、再びたくさんのお客様がエスコヤマまで足を伸ばしてくださるようになったことに、ここであらためて感謝の気持ちをお伝えしたいと思う。


そんな出来事があったせいか、私は三田という街の魅力をお客様に伝えることが、自分に課せられた大きなミッションであるとより強く思うようになった。大阪や神戸の都心から電車や車で約1時間、また伊丹空港から車で約30分でアプローチできる快適なアクセス、心癒される豊かな自然や田園風景に囲まれ、肥沃な大地からの食材に恵まれた食の都・三田。この街に食通を唸らせるレストランや日本料理の店などが10軒ほどもあれば、ここは“関西のサンセバスチャン”になれるポテンシャルが十分にあると思う。


さらにその魅力を後押しする存在として、古都・丹波篠山や陶器の郷・立杭が車で20分と近いこともぜひお伝えしておきたい。 エスコヤマにも作品を提供していただいている市野雅彦さんや今西公彦さんをはじめ、多くの陶芸家の方々が立杭の地でアトリエを構え、立杭の土を使って個性豊かな作品をつくられている。 また他にも、三田にはエスコヤマのロゴマークと大きな関わりを持つアーティストがいらっしゃる。 それは県立有馬富士公園にある「風の彫刻」で知られる彫刻家の新宮晋さんだ。


エスコヤマがオープンする前、グラフィックデザイナーの大崎淳治さんが「エスコヤマ」のロゴマークデザインを含めたイメージデザインやコンセプトをプレゼンテーションしてくださったときに、これから自然の中でいろいろとクリエイトしていくであろう僕の写真が無かったので、大崎さんが思う「同じ考えをベースにされているであろう作家さん」として、新宮さんの写真や、エスコヤマの「乙女の便秘が治るトイレット」を手がけてくださったカリスマ左官職人・久住章さんの写真を仮に当てはめた資料を見せてくれながら説明してくださったことがあった(後に、このお二人と本当に一緒にお仕事をさせていただくことになるとは当時夢にも思っていなかったが)。 大崎さんから直接言われたわけではないが、「自然の中で仕事をするって、こういうことでしょ」とおっしゃりたかったんだと思う。 こうした多くのアーティストの方々がここに活動の拠点を置き、世界に向けて作品を発信し続けているとう文化的な気風も、この三田の魅力のひとつになっている。


そしてエスコヤマも、今年2019年秋には本店をリニューアルする予定だ。 今回のリニューアルは実験的な要素が強い。 この15年間、お客さまに御迷惑をかけてしまっていた動線を見直し、今の自分たちの考えが合っているのかどうかということを確認してみたいと思っている。 本来であれば製造の部分も抜本的な改革をしていかなければいけないが、20日という限られた期間で出来ることを精いっぱい、皆の力を借りてやっていきたいと思う。 またその傍らで、エスコヤマのお菓子も日々進化し続けている。


その一端を少しだけお話しすると、以前からエスコヤマでは、小山ロールの端の生地やフルーツの皮やヘタなどで堆肥を作り、出来たものを農家さんへお渡ししていたが、つい先日からその堆肥を近くの乳業メーカーへ持って行くことになった。 そこでは、乳牛が良いミルクを出すために様々な工夫をされているのだが、その中の一つに、「牧草農家さんへの堆肥の供給」というものがある。 牛は視界が360度開けた状態にすると安心し、ストレスが軽減して良いミルクを出すそうで、牛舎には牛の寝床が地面から1mの高さになるように籾殻のベッドがある。 そのベッドに牛は糞尿も出すのでそれが良い発酵の種になるのである。 牛も綺麗好きなので籾殻は常に交換され、使用済みの籾殻は牛舎の隣の発酵室へ。発酵室では絶えず発酵が進んでおり、そこへエスコヤマからの堆肥も混ぜられる。 良い発酵をするための実験を今もされているそうだ。 そうして出来た堆肥は牧草農家さんへ供給され、良い牧草を育てるために活用されている。 それをまた牛が食べてミルクとして出してくれるという良い循環を生む取り組みだ。


そんなミルクを使って、新生小山ぷりんを創ろうと思っている。 果たしてどんな味わいになるのか、みなさんにはぜひ楽しみにしておいていただきたい。 こうして15年目を迎えた今の夏も、いつもと変わらずひとつひとつのお菓子を大切に育みながら、エスコヤマはこの三田の地でこれからもお菓子をつくり続けていく。 ぜひまた多くのお客様に足を運んでいただきたいと思っている。


パティシエ エス コヤマ
小山 進

PREV 1 2 3
TOP