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Vol.19

出会いをカタチにする精度

乳化のトリックを活かした新しい小山ぷりん

話は戻るが、鶏白湯で気付いたことを商品に活かそうと、お菓子教室で「レアチーズケーキ」の進化版を創った。 このとき、「このケーキを小山ぷりんにしよう」というイメージを具体的に持ちながら完成させた。 そのケーキは、真ん中の層にバターと砂糖で炊いた苺の果肉と、鶏白湯の発想を活かして生み出した「苺のバタージュレ」。 その下に苺と同じバラ科のアーモンドを使った生地があり、ジュレの周りにはバニラのムース、さらにその上にはクリームチーズの生地、という構成。 これをそのまま小山ぷりんに変身させたのである。


試作の際、バタージュレだけは固さをチェックするためにプリンカップに流して家に持って帰っては食べ、家に持って帰っては食べ、を繰り返して何度も確かめた。 「どんな食感にしたいか」は、「どう味を感じていただきたいか」に直結するのでとても重要だ。 求める食感は常にピンポイント。 お菓子それぞれに理想のやわらかさ、固さ、表現したい食感がある。 小山ぷりんのコーヒーゼリーも、決して固くはないけれどやわらかいというべきでもないような、あの固さでなければダメだった。


バウムクーヘンも同じ。 エスコヤマはマジパン入りのふんわりしっとりとした食感のバウムクーヘンから始めた。 それがあることで、ハード系のガトー・ア・ラ・ブロッシュやビートル君も、咀嚼を通して生まれる美味しさを感じていただくことが出来た。 今回はバタージュレというものの固さが自分のなかのイメージとしてあって、レシピを組んでからそこに着地するための微調整に一番時間をかけた。 ゼリーなのか、プリンなのか、どんな表現が正しいかは分からない。 召し上がっていただいたらきっとお分かりいただけるだろう。 発想がチーズケーキなので、そう名付けたが、「小山ぷりんの形をした新しいお菓子」だと思っていただけたらよいと思う。

完成した新しいぷりんは、「苺チーズケーキ」と「マンゴーチーズケーキ」の2種類。 「苺チーズケーキ」は、苺とバターを乳化させることで“苺ミルク”とはまったく違った新しい苺の表現ができた。 バターという“乳”と融合しているにもかかわらず、苺の味わいはクリアに感じる不思議な感覚だ。 また、「マンゴーチーズケーキ」は、マンゴーとバターを乳化させジュレにすることで、より濃厚なマンゴーの魅力をアップさせることができた。 フルーツの特徴とバターの特性をうまく合わせて素材の良さを引き出すことが肝だった。


そのバタージュレと層を成す小山ぷりんの生地は、クリームチーズが主役。 ただし、クリームチーズというと「冬フロマージュ」のイメージを持たれるかもしれないが、あれは文字通り冬のアイテム。 夏にも美味しく召し上がっていただけるように軽いあと口の北海道産クリームチーズのみに変更し、ジュレとのバランスを考え、生地量を少し増やした。 ジュレはバターを使用している分、通常の季節アイテムのブランマンジェなどに比べると味わいとしては濃厚だからだ。


苺チーズケーキに使用する苺は、三田苺。 完熟の三田苺を真空にして美味しさを瞬間的に閉じ込めた。 お菓子づくりではフランス苺のピューレなどを使って季節を問わず苺を表現することもあるが、苺には季節性があり春のイメージもある。 それでも夏のアイテムとして苺を出すのは、ものすごく市民権を得ている一番ポップで一番メジャーなヒット果実だから。 僕自身も苺にベタ惚れしていると言っても過言ではない。 あれを抜くものは、そうそう出て来ない。 それをこの夏に、夏らしいかたちで提案をさせていただくのだが、夏らしいと言ってもゼリーではなく、改めて素材の面白さを発見した「バター」と、僕の中でのブームが到来している「乳化」の両要素を取り入れて夏らしく仕上げた、エスコヤマらしい表現だ。


「乳化しているから美味しい」というものは世の中にはたくさんあり、実はもう皆さんもたくさん口にされているだろう。 マヨネーズもドレッシングも、中華料理の鶏白湯もそう。 その逆で、分離しているものもいっぱい食べている。 分離しているから美味しいものもある。 ラーメンの葱の上からバーッと鶏油の熱いのがかかっているのは、冷めないということもあるし、油とスープが同じタイミングで入ってきて口の中で初めて乳化する瞬間にブワーッと香りが広がったり、味が広がる瞬間を体感できたり、という驚きがある。 僕は講習会でチョコレートを使ったお菓子のレシピを披露することが多いが、そこでもよく「乳化の重要性」をお話しさせていただくが、乳化の説明をするときにラーメンの油の例はよく話す。 普通に今まで自分が食べているようなものを思い出しながら、「なぜ?」と「なるほど」を繰り返しながら辿り着いたのが、「乳化ぷりん」というか、「夏バタージュレ」だ。


今、ネットを通じて本当にいろいろなものが手に入るし、それを使っていろいろな表現もできるようになっている。やはりいろいろなものを見に行きたいとも思う。 それでもまだまだ制限がある中で僕たちのできることは、「絶対に美味しいお菓子、新しいお菓子を生み出すこと」。 それはどこにも行かないから余計にできる、というのが今掲げている僕のテーマだ。だからこそ、この新しい小山ぷりんのような形こそエスコヤマが発信するべきアイテムだと思っている。

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