19.12.25 (3/4ページ)
Vol.13

ボンボンショコラ 幸せのパンデミック作戦 2020

世界的カカオ・カンパニーからの 次代への挑戦状

話は2019年の9月に戻る。私は世界的なチョコレート・メーカーであるバリーカレボー社から招待を受けてサンフランシスコに赴いた。


「新商品発表会」とだけ記されたそのインビテーションにはそこで何が行われるのかは全く知らされておらず、他に同梱されていたのは一つの白い箱。中にはカカオの果肉部分と、半分に割られたカカオポッドの上部分と、下部分のイラストが描かれた3枚のアクリル板だけ。現地へ行くと結局、世界各国から30名ほどのショコラティエたちが招集されていた。バリーカレボー社といえばルビーチョコレートの開発で今もっとも注目されているメーカーだけに、私たちの期待は高かった。


軽い説明の後、私たちはサンフランシスコの街へと連れ出された。一行は現地で流行っているという日本茶のティーショップへと向い、お茶が持つ旨味などについてレクチャーを受けた。各国のショコラティエたちは興味津々だったが、日本人の私としてはさすがに知っていることばかり。ただ、抹茶の説明の中で「エナジー」という言葉を使って表現していたのが印象深かった。



次に向かったのはNASA出身の技術者と共同開発したという、20種類ものハンバーガーを無人で作るマシーンがあるバーガーショップや、瞬時に好みの素材でアイスを作るマシーンなど、食分野の最新のテクノロジーを体験した。ちなみに、ハンバーガーは美味しかった。アイスは海外らしく甘かったが、発想には惚れ惚れした。日本では消防法などあって実現は難しいだろうけど……。



終着点はレセプション会場。皆が席に着くと音声が流れだし、会場内にドラマチックな映像が映し出されて地球温暖化をはじめとする環境問題、フードロスなど食の問題が語られた。そして、最後に満を持して登場した新作カカオは、これまで廃棄していたカカオポッドの部分までをすべて使ったホールフルーツ・チョコレートだった。私たちが普段使っているチョコレートも、実際に使用されているのは全体の30%にあたるカカオ豆の部分のみ。他の70%は廃棄されるので、チョコレートが作られれば作られるほど、多くのカカオポッドは廃棄される。世界中でチョコレートが消費されていることを考えるとその量は膨大だ。


バリーカレボー社はそのことを憂い、最新のテクノロジーを駆使して、カカオポッドをまるごと用いて新しいカテゴリーのチョコレートを創り上げたのだ。そして、その発表会の場所として、今、世界でもっともエシカル(倫理的)な街のひとつとして知られるサンフランシスコを選んだことにも大きな意味があるのだろう。サンフランシスコ周辺のベイエリアには、世界の頭脳が集まるIT産業のメッカ、シリコンバレーがあり、70年代のヒッピーの時代から常に社会問題と正面から向き合ってきた歴史、そして豊かな食材を育む自然環境があるからだ。


実際、いただいたホールフルーツ・チョコレートはこれまでのコンチングされたなめらかな舌触りのものとは異なり、プラリネのような分厚い口当たりとねっとりとした舌触りで繊維質が多い印象だ。しかし、その味わいはカカオそのもののフルーティーな風味が力強く華やかに香り、砂糖が全く入っていないのにほんのりとした甘味さえある。これはチョコレート産業における画期的な発明であることは間違いない。しかし、それをどう使うかは、我々ショコラティエの知恵とアイデアにかかっているのだ。



今、技術の進化にともなってチョコレートは次の時代へと動き始めた。バリーカレボー社は、今回の発表会でわれわれショコラティエにそのボールを投げたのだ。2020年のバレンタインを境目に、世界のチョコレート文化そのものが大きく変わっていくかもしれない。また、チョコレートに限らず出来上がったお菓子を包むパッケージについても同じことが言えるだろう。世界的にプラスチックの使用を減らそうという動きも大きなうねりとなっている。実際にフランスのショコラティエたちの中には、今後は紙のパッケージしか使わない、と宣言している者もいた。


エスコヤマの取り組みで言えば、ガトー・ア・ラ・ブロッシュのようなPP加工を施さない白無垢のパッケージや、紙素材にこだわった「BOTCON!!」という新作のお菓子のパッケージも投入していく。美味しいことや美しいこと、商品に物語性やオリジナリティがあることに加えて、これからはいちお菓子屋としても地球環境に対する姿勢が問われる時代になってくるだろう。そんな時代の転換期にパティシエ/ショコラティエとしてモノづくりができることを幸福に思う。


チョコレートを愛するみなさんも、今後いったい何が起こっていくのかと、ワクワクした気持ちでお待ちいただけるようなモノづくりをこれからも力強く発信していきたいと思う。



2019年 冬
小山 進

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