23.05.14 (3/4ページ)
Vol.21

比べる楽しさ

NEW STYLE CHEESE CAKE

いうとクラシックさを感じられるかもしれない。しかし今回の「ベイクドチーズケーキ」には“スタイル”という新しさを添えた。まず、生ケーキ(火こそ通しているが、食べた感覚は生のようだ)をギフトにしてしまうというところ。そしてスティックタイプの個包装にして、家庭で切らなくても封をあければひとつひとつすぐに食べられるという提案。
肝心なのは、心地良いほどになめらかな口どけで、試作をする中でとにかくやわらかさを追求した。絶対に硬くなってはいけないので、ギリギリの絶妙な火入れが絶対条件である。 ひとつはマダガスカル産のバニラビーンズをたっぷりと含ませ、底にはレーズンを敷き詰めた。昔、エスコヤマのオープン時にラムレーズンを敷いたベイクドチーズケーキを創っていたので、いうなれば“エスコヤマ的ベーシックの進化版”のようなニュアンスもある一品だ。 そしてもうひとつがストロベリー。これを創ろうと思ったのは、苺にはどんなフルーツと比べても負けない格別なパワーがあると最近すごく感じるからだ。僕はここ最近よく“POP”を口にしているが、その言葉の象徴のひとつがこのフルーツだといえる。お子さまも大人の方も、お年を召した方もきっとみんな大好きだろう。とはいってもバニラもかなりPOPな素材なので、苺といい勝負をするのではないだろうかと期待している。


できればこの2つを交互に食べて、ぜひ比べる面白さを感じていただきたい。バニラを食べた後に苺を食べると、その甘酸っぱさがより際立つし、その後にまたバニラを食べると、マダガスカル産バニラビーンズならではの熟成感のある濃厚な香りを一層感じることができる。 そしてどなたかに贈られたときにはぜひ感想を聞いてみてほしい。美味しかった!と言ってもらえればもうそれがすべてではあるが、「こんな生ケーキが贈られてきたの!?と驚いた」と言ってもらえたら僕のねらい通りだ。


OH MY inGOD
あぁ、なんて素敵な私のフィナンシェたちよ

僕は京都に生まれ、京都で育った。大阪の学校に通い、神戸で修行した。当時、関西ではアンリ・シャルパンティエさんが浸透してきていたので、僕にとってはふんわり浮いたフィナンシェが主流であった。「じゃあ僕はどんなオリジナルを表現しようか…?」というところに力点を置いて修行した記憶がある。初め、どうすればふんわりと焼き上げられるのか、浮かせるにはどうすればいいのか、理屈や原理を考えた。そして分かったのは、まずは “深さ”が必要だということ。つまりは深いフィナンシェ型を使う必要があったのだが探しても見つからず、結局フィナンシェ用として売られていたわけではない型で代用することにした。そこに生地を流し、240℃の高温でサッと表面だけを焼いて中は焼けていない状態にし、生地の底力と熱から生じる“マグマの対流”を利用する。逆に低い温度で火を入れると中からじわじわ火が通るので浮かないし、型が薄ければ淵も中も一緒に焼けてしまう。修行時代にふんわり浮いたフィナンシェに出逢い、浮く原理を理解したことが僕のお菓子創りにすごく役立つことになった。そうして完成したのが今回のボックスに入っているひとつ、オープン当初から焼き続けているエスコヤマ的スタンダードなフィナンシェだ。


そしてもうひとつは初めて登場させる濃厚タイプ。エスコヤマをオープンしてからフィナンシェをもう一種類創ろうなんて思ったことはなかったのだが、ふんわりとは対照的な“どっしりとした濃厚タイプ”もそろそろやっておきたいなという感覚が芽生えてきたのだ。もちろん「比べて楽しむ」ということをテーマに据えて。
修行時代にはヨーロッパに行ったり、フランス菓子を主流にしているパティシエのフィナンシェを食べ、実はたまに試作をしたりもしていた。ただ、当時は自分で商品を開発して会社に提案できるような立場ではなかったので、日の目を浴びることはなかった。そんな“若い頃に濃厚なフィナンシェを食べていた感覚”を思い出して、この度「焦がしバターフィナンシェ」として再現した。昔はカタチにできなかったが、今ではサッと完成させることができたのだ。


さて、章のタイトルにもなっている商品名について「どういう意味だろう?」と気になっている方もいらっしゃると思うので触れたいと思う。 そもそもフィナンシェには金融家や金持ちなどの意味がある。焼き上がった色あいや、ひっくり返した形が「インゴット(金塊)」に似ていることからだ。そこに「オーマイゴッド」をかけ、『OH MY inGOD(オーマイ インゴッド)』とシャレ的な感覚で名付けたのだ。 簡単に訳すと「あぁ、なんて素敵な私のフィナンシェたちよ」といった感じだろうか。あぁ神様、信じられないことが起きた(オーマイゴッド)というほどに僕にとっては奇跡的なほどいろんな経験から誕生したボックスであり、みんながお金(インゴット)を大切にするように、僕にとってこのフィナンシェたちは本当に大切であり、なんという美味しさだ!なんて楽しいんだ!と驚いていただけるようなOH的要素も強く入っている。そんなニュアンスが相まってこのネーミングは何だかとてもしっくりときたのだ。


ちなみに僕はこのプレーンと焦がしバターのどちらも大好きで、その感覚を創り手として表現したかったし、どっちの方が好きだというような比べ方はできないが、今日はプレーンの気分だとか、明日は焦がしバターをコーヒーと一緒に食べたいとか、紅茶にはプレーンを合わせるほうが好きだなとか、その時々の気分で楽しみを深めながら味わってほしいなと思う。

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