21.05.20 (5/6ページ)
Vol.16

持続可能なモノづくり
~What is the true meaning of sustainable?~
サステイナブルの真の意味とは?

苺も少し糖分を入れれば極上のソルベに変身するので相性も抜群。 さらに、三田苺という地元の素材を活用することで、地産地消・エコといった、SDGsの考え方にもフィットするものになった。 作る工程でジュレを入れる、焼く、など色々な工程を踏まなければいけないことはスタッフにとっては大変なことだが、自分が食べ手の立場であれば、そのひと手間こそ求める部分だ。


そうやって大切にしてきた考えを元にSDGsの考えを反映したアイテムの2つめとして、「es-Gelée~spirit of pâtissier~」という名前のフルーツゼリーを発表する。 ゼリーは以前出していたことがある。 しかし、当時は冷夏が続いたことで「そんなに需要がないのか」「エスコヤマがやるべきではなかった」と、判断してやめてしまった。


今改めてゼリーの価値を見直すと、いくら味が良くても見た目が悪いフルーツは市場価値が低くなるところをゼリーであればカバーできる。旬が短く入手困難なフルーツもゼリーに加工すれば季節を問わず食べることが出来る。 考えれば当たり前だが、それこそ生産者の皆さんが継続して農業を続けていくために考えられたことであり、食べ手である私たちにとってもメリットのあることである。


ゼリーも美味しいものは本当に美味しい。 今は技術の進歩によって、一番美味しいときに採ったものを低温で長期保存ができる冷蔵庫が開発されていたり、瞬間冷凍技術を駆使したピューレにしたりと美味しい状態で長く保存できるようになっている。この技術発展の根底にもきっと「素材を活かし切りたい」という思いが宿っている。

そこで、自分が美味しいと思う状態に仕上げるためだけに自分でコーヒーの豆を煎る蕎麦職人のように、そのゼリーの味を組み立てるパティシエがいたとしたら、という切り口で、名前に「spirit of pâtissier」と付けた。 たいそうな名前だが、僕たちができるのは、やはり美味しいものを創り出すこと。


ただ果汁を増やしたから美味しい、でもなく、皮の苦味や香り、果肉のやわらかさなどをゼリーで表現できるようにとことん追求して、「生で食べるより美味しかったね」と言っていただけるような、素材そのものを感じる味わいを表現できれば、「冷夏だったから売れなかった」ではなく、「あそこのゼリー食べた? 食べな損やで」と話題になるような、モノづくりがもう一度できるのではと思い、改めてゼリーに向き合おうと思ったのである。

また、これを食べた子どもたちの中で印象が変わって、美味しいゼリーが登場する季節を楽しみに待ってくれることが、すごく大事な循環だと思う。それこそ持続可能な社会を築き上げていくための原動力ではないだろうか。

2020年、こうした新作を創りながら沢山のコンフィチュールを炊き、動画にアップしていたら福島県の島田農園さんという、美味しいルバーブを生産されていることで有名な生産者さんと繋がることが出来た。 やりとりをさせていただくなかで、2020年は初夏から秋までの間に数度ルバーブを送っていただきその期間の環境の変化を想像しながらコンフィチュールを作り、出来上がったものを送ったら、「今までいろいろな方に作っていただいたが今までで一番やさしい、美味しい」と言ってくださった。


こういった形で生産者の方と繋がることが出来るのはとても幸せなことである。 そしてこの文をまとめている時に、島田さんから昨年は出会えなかった春一番のルバーブが届いた。 これは自分が炊いた。 それが重要で、梅雨時や秋にも炊いているのでスタッフに頼んでもできるが、去年は春一番には出会えていないからそれだけは自分が炊いて、その違いを僕自身が感じて、感じたことをスタッフと共有する。


ルバーブも春~秋にかけて変化する。 届くものは毎回同じ味とは限らない。だから、自分で確認して正しく理解しなければ良いモノづくりはできないのである。 こんなふうに生産者の方から思いと共に素材を受け取って、モノづくりに活かすことが出来れば良いが、素材の多くは色々な人の手を経由して僕たちの元にやってくる。


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