22.11.07 (1/4ページ)
Vol.20

WELCOME TO NEW POP WORLD

夏は動く。

 今年の2月から8月まで、エスコヤマ内では初のカフェイベント「es koyama Chef’s Table in hanare」を開催した。 一日限りのオリジナルスイーツをコース仕立てで僕が考案し、提供させていただき、コースのテーマも僕が決めた。  vol.1は「POPな領域」、vol.2は「ディスカバリー」、vol.3は「été 〜僕達の得意なコト〜」。 そして8月9日に開催したvol.4では、「Summer is moving~夏は動いている~」をテーマにした。イベントがスタートし、僕は参加してくださったお客様に「みなさんにとっての夏はいつからいつまでですか?」「子供の頃の8月9日はどんな感じでした?」と質問をしてみた。 僕の突拍子もない問いかけに戸惑いを隠せない様子で、『8月9日はまだ夏真っ盛りやんなぁ……?』とみなさん自信なさげに答えてくださった。 そもそも決まった答えなどなく、それぞれのイメージが正解なのだ。


僕は子供の時から“夏”は、暦の上でのひとくくりとしてではなく、自分が大好きで興味のあることから夏の動きを感じていた。僕の中で夏のはじまりは、冬眠から目覚めたクワガタが木から出てくる5月頃。 そのあと梅雨明け位にカブトムシが羽化しはじめ、祇園祭りで本格的な夏に入る。 興味の矛先と地の利から、京都人ならではの夏の移り変わりを感じていた。 あとはセミが鳴く順番。 ニイニイゼミからはじまりクマゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシそして最後にツクツクボウシという感覚。 子供の頃は音から感じとれていた蝉の数も、今では少しずつ減ってきて、クマゼミが騒がしいと感じることもなくなった。 鳴き始める時期も年によってまちまちだ。 20年前と比べると少し早くなっている気がするのは、おそらく地球温暖化の影響だろう。 また年によっては蝉の声が全く聞こえない年もあり、「幼虫7年+成虫7日=7年7日程度」と言われている7年前に何があったのか、心配になったりもするのだ。


お菓子屋となった今、僕は生産者さんから送られてくる果実や野菜から季節を感じ取っている。 三田近郊で栽培されているブルーベリーを例にあげると、6月から8月前半まで約40種類くらいの品種が日ごとに交代しながら動いていく。 ブルーベリーと言っても4種類以上の品種をブレンドしてお菓子にするので、味わいは常に違っており、それが面白いと思って創作している。 いちじくにしても、とよみつひめや川西産の朝摘みいちじく、蓬莱柿、黒いちじくと、夏から秋の間で動いているのだ。子供の頃の僕にとって8月9日は、夏が終わっていく寂しさを感じる日だった。 母親に「始まる前は楽しいけど、だんだん終わっていく感じってむっちゃむなしい」と話すと「そんなこと考えんと、最後まで楽しみよ」とよく言われていた。 そんな子供の頃に感じていた『大好きな夏が終わっていく寂しい感情』を、Chef’s Tableでは「いちじくとマロンのかき氷」という一品で表現した。


このように季節の移り変わりや、毎日同じように訪れる日常の中から、ちょっとした変化を“自然に”感じとることができたら、特別に変わったことをしなくても、そのまま自然体で作品を創りあげることが出来る。 無理矢理創られたストーリーではなく、僕のセンサーが察知したリアルストーリーがそこにはあるのだ。僕は発想を含めた創作作業は、より自然に無理なく進めたいといつも思っている。

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