22.11.07 (3/4ページ)
Vol.20

WELCOME TO NEW POP WORLD

素人とプロ

 時は流れ、今は誰でも色々なものを自由に表現し、どんな場所からでも発信できる時代になった。チョコレートやカカオにしてもそうだ。 2007年位だろうか。 ニューヨークに「Mast Brothers Chocolate」という異業種参入型のブランドのビーントゥーバー専門店ができ、日本でも2010年位から広がり始めたビーントゥーバー専門店で、様々な産地の多種多様なチョコレートが簡単に手に入るようになった。  


ここ10年ほどの間で、全国の百貨店がバレンタインのイベントで、チョコレートやカカオの文化を正しく伝えることを目的に、新しいカカオやチョコレートを探し、沢山の情報を提供していった。 その貢献度は僕達の創作にも影響を与えてくれ、カカオありきの作品が数々生まれたが、その反面、お客様に「チョコレートは難しいもの」というイメージが無意識のうちに出来上がってしまったのだ。 誰もが興味あることに特化して、深く学ぶことに時間をかけられるようになった時代。 カカオやチョコレートの新しい味覚を学びとし、その蓄積を面白いと感じてこられたお客様のおかげで、僕達もCHOCOLOGYシリーズなど、新しい味覚の創造にチャレンジすることができた。


今、時代がもの凄く複雑になってきている。 僕がお店をオープンさせる前までは、「とにかく手に職を付けて、人気のお店で修行してお菓子の作り方を学ばなければいけない」という時代で、国内外の有名店で修行を終え、故郷で独立し出店する人が日本全国に行き渡り、元気のあるお菓子屋のビジネスモデルが生まれたのだ。 また世界から有名シェフのブランドが、日本をはじめ世界各国に行き渡り、ある程度の美味しいものはどこでも手に入ることが出来、業界は「飽和状態」になってしまった。 そこで次に生まれた新しい流れが、異業種参入型の深掘り系ブランドだ。 全く違う業界で世の中の流れを全体的に俯瞰して見てきたクリエイティブディレクターが、あるポイントをしっかり深掘りして表現し、専門的にスタイリッシュに提案する。 どちらかというと僕は、そっちの感覚もすごく理解出来たし、修行していく中で「修行は子供の時から」ということに気付くようにもなった。


僕は「人に教えてもらったレシピでお菓子が作れる」と「オリジナルのお菓子を創れる」は全く違うものだと思っている。 オリジナリティ溢れる自分自身の創作には以前から「創る」という文字を使うようにしてきた。 「作る」と「創る」で意味を使い分けているのだ。 お菓子を中心とし、その周辺も含めてエンターテイメントに昇華させる。 僕は子供の頃からの「好き」と「得意」を集めて、「自己表現」する。 これが今後どんなジャンルのブランドが来ようとも、決して負けない自分自身の創作の条件のように思えた。 自分の経験から基づいた、我流は自由で強いのだ。勉強しないプロは、素人に負けてしまう時代がもう既に到来している。 僕はオープン当初からずっとそう言い続けてきた。 自分の趣味にかける時間も増え、知ろうと思えばどんな情報でも手に入る。 その素材について、プロではなくても思いっきり深堀することが出来る時代なのだ。 センスの良い人がモノづくりを始めると、何をどんな理由で、どう創るのか。どういうプレゼンテーションをして、リリースしていくのか? そういうブランディングにもかなりのセンスが必要となる。


19歳からお菓子作りの修行だけをし、ただお菓子の作り方だけを学んできた人は太刀打ち出来なくなるのだ。 その穴を埋める為に、ブランディングを他の人に任せたりしてしまうと、自分自身を操縦することができなくなり弱体化していく。 だからこそ着地のイメージを強く想像し、自らの発想で創られたオリジナリティ溢れるお菓子はきっと廃れていかないだろう、と僕は思う。 だから、僕の元で働いてくれているスタッフの子たちには、僕のお菓子創りのロジックを丁寧に教えたいと思って日々過ごしている。 僕と同じお菓子を同じレシピで作っても生きていけない時代だからこそ、モノづくりの根幹にある大切な想いを毎日伝え続けているのだ。 僕が培ってきた基礎を活かして今日まで生きてこられたように、スタッフの子たちにも、僕とは違う自分自身の経験で、現代の新しい職人になってほしいと強く思っている。


エスコヤマのPOP WORLD

 誰もが美味しいと思って頂ける「上質感のある普通味」。 これがオープン当初から今も変わらない我々が大切にしているコンセプトだ。 しかしショコラに関しては僕が思い描く場所へ着地させるために10年ぐらいかかることを想定して段階的に進めてきた。 まず初めに行ったのは、世界に日本の魅力を伝えることだ。 2011年、日本人として初めて「サロン デュ ショコラ パリ」へ赴き、「クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ(C.C.C)」の味覚のコンクールに出た時、僕が世界で表現しなければいけないと感じたのは、日本人が身近に感じる素材とカカオとのマリアージュだ。 本場のヨーロッパで誰も使ったことがなく、我々“日本人”が得意な素材を使うことが今やらなければいけない僕のミッションだと思ったし、それこそが僕のオリジナリティだと思い創作してきた。


これまで、ふきのとう、桜のチップの燻製香、切り干し大根、熟成酒粕、かんぴょう、日向夏、京番茶、香茸、黒文字、金木犀、大徳寺納豆などの日本の素材をはじめ、僕が様々な旅先で出会い、センサーがキャッチした世界の素材・メキシコオアハカの唐辛子や、カンボジアのジャングルの熟成蜂蜜なども使用してきた。 新しいショコラを出品する度、審査員達から期待されていることを感じ、その期待に応えながら創作を続けてきた。 そして僕のことを「私達が知らない味覚の旅をさせてくれる味覚の錬金術師」と評価してくれ、世界中で日本の素材を使用したショコラが作られるようになったのだ。


こうして僕の創作の歴史を振り返ると、フランス人や若手のショコラティエの創作の自由度に少しは貢献できたのではないかと思っている。 そもそも僕がなぜチョコレートに力を入れだしたのか。 それは日本で専門店のチョコレートが市民権を得ていなかったからだ。 そんな想いで取り組みはじめたショコラ創作は「いつか日本でボンボンショコラを日常的に楽しんでもらえるように」という第一段階を終了した。 新しいショコラを創作する一方、「チョコレートって複雑で難しいな」とお客様に思われているのではないかと心配し、もっと親しみやすいものにしなければと頭の片隅でいつも考えていた。 ショコラ創作の第二段階である今、あらゆるテクニックを駆使しながらも、それを前面に押し出さず“POPな領域”へと着地させる。 世の中が複雑になり、どれを選択すれば良いか分かりにくくなってしまった今だからこそ、もっと分かりやすく今までにありそうでなかった、大好きなショコラの新しいカタチをやっと生み出すことができた。 今年の新作ショコラではそれを体感して頂きたい。


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